地球外生命体を食らう

ガミエ

第1話

4月1日毎朝新聞28頁「日本海沖新種発見」

4月4日読々新聞1頁「世界各地で発見の新種 地球外生命体の可能性」

4月15日読々新聞1頁「地球外生命体をガイセーと呼称することを政府発表」

4月22日毎朝新聞1頁「ガイセー 人間に悪影響なしか」

月刊くらしゆたかに6月号巻頭特集「ネットで話題ガイセー調理法」

季刊ワールドワイドグルメ夏号「世界のガイセー食大特集!」

8月10日毎朝新聞社説「ガイセーによる世界の食糧供給事情の変化に政府はどう対応すべきか」

月刊経済プロブレムス9月号「ガイセー食が変える 外食産業についていけ!」

月刊サイエンスアンドテクノロジー ガイセー特別号「ガイセーはヒトの三歳程度の知能がある可能性」

10月3日読々新聞1頁「国連 大規模調査で環境に影響なしと判断」

東京ラーメンプロムナードホームページ「東京ガイセーラーメン十選!」11月5日更新


「とりあえず、これだけあれば十分かな」


 陽太はコピーした資料をリュックサックに入れ、図書館を後にした。

 資料は学期末レポートのために使う予定だ。大学二年生になっても友人のいない陽太は、自分で資料を集めレポートを作る。応用倫理の授業で「地球外生命体(通称ガイセー)を食することの倫理的問題について」というテーマである。一万字程度を指定されていて面倒だが、出さないわけにはいかない。一年生のときに落とした授業だし、冬休みに入る前に教授が課題を発表してくれた。ほかの授業と被らないように配慮したとのことだった。


 陽太は川沿いの道で自転車をこぎながら、頭の中でレポートを組み立てる。①倫理的問題とは何か②ガイセー発見から現在までの経緯③①で述べた構造をガイセー食に当てはめる。こんなところかな。


 ①に関しては授業で扱ったところだ。配布されたレジュメを使えばわけない。③もさほど難しくない。①を丁寧に書けば論理展開はスムーズにいきそうだ。②自分でまとめる必要がある。しかし、文字数の稼ぎどころだ。そのためにわざわざ図書館で資料を用紙代まで払って印刷までしたのだ。


 教授は引用や剽窃といった点に注意を配る。背骨が曲がって、年を取っていて、背が低く、いつも額にしわが寄っている見た目通り面倒くさい人間だった。去年単位を落としたのもそのせいだった。怪しいと思った学生に引用した資料の提出を命ずる。学内でもその厳格さは有名らしかったが、大学内で交流のない陽太は知る由もなかった。


 夕日に向かって走る市民ランナーを追い抜きながら、陽太はガイセーについて整理し始めた。生態が解明され話題になったのは夏前だったか。ガイセーは卵生でひと月で全長50㎝近くの成体になる。サンショウウオに足をあと足したような外見だ。普段は深海にいて、呼吸が必要で集団で海面に出てきたところを網ですくうのが漁の方法としてスタンダードらしい。食性は未解明だが毒性はないし、大規模な観測を行っても環境に大きな変化は見つからなかったそうだ。味は部位によってかなり異なった。ただどの部位も美味しいことには変わらなかった。価格も食べられることが噂になってすぐは急上昇したが、繁殖のペースが解明され、安定供給されることがすぐ世間に知れた。一食分に必要とされるたんぱく質を腹にちょうどいい量で摂れ、その量を大体かけそば1.5杯ほどの値段で買える。


 河川敷に強い風が吹いた。12月の風は冷たい。ガイセーのことを考えていて腹が減った。陽太はスーパーでガイセー鍋の素と白菜、ガイセーの薄切りを買うことにした。


 

 




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