龍月譚ー国滅しの龍と月のお姫様ー
@kabuu
序章
轟音と砂埃にまみれ崩れ落ちる城を見晴らしのいい高台の崖から眺めながら、終わったんだと実感が湧いた。この国の象徴であった絶対的な古城。二千年と続いた国の終わり。案外あっけないなぁと感じながら眺めていると春の心地良い風が甘い匂いを運んでくれた。
右隣りに視線を向ければ李桜ーりおんーはただまっすぐに壊れゆく城に視線を向けていた。無意識に李桜の左側に立つのは左耳に髪をかきあげる癖を俺は知っているし、李桜の顔がよく見えるからだ。誰よりも優しい彼女のことだから、逃げ遅れた者たちの無事を願っているかもしれない。
風が彼女の髪を弄ぶ。数時間前までは腰までの長髪は今は肩くらいまでしかなかった。それに長さがバラバラ。急だったし、ナイフしか持ってなかったから綺麗に切りそろえられなかった。後で綺麗にしてあげよう。
彼女は可愛い、俺が出逢った女の子の中で一番の美人。きっと世界中の誰よりも。古書に描かれている女神だって敵わない。深碧の瞳も艷やかな黒髪も白い肌も。声も好き。彼女の歌はどんな音楽にだって負けない。俺は彼女が大好きだ。彼女が居ればそれだけでいい。
俺の視線に気付いたのか、李桜はそっと微笑んだ。
「そろそろ行きましょうか、悠真ーゆうまー。」
穏やかに俺を呼ぶ心地良い声に優しい眼差し。
その顔がずっと見たかったんだ、彼女が安心できる世界になったらいいなって。彼女の望みが叶うことができたらいいなって。これからは好きな服も着れる、分厚いレンズで大きく綺麗な深碧の瞳を隠す必要も、女性らしい丸みのある体型を隠すこともない。辛辣な言葉を吐き、他人を傷つけ苦しむことも。虚像を演じることはない。そう思うと俺も嬉しくて達成感が湧いてきた。だから、つい、
「李桜、俺のお嫁さんになって!」
母様から教えてもらった事を伝えた。大好きな、大切な人と一緒にいられる魔法の言葉。
「ふざけてないで着替えておりますよ。」
真剣に言ったのに李桜は眉を寄せて踵を返した。慌てて追いかける俺に振り向いてすらしてくれない。悲しい。
「待ってよぉ李桜ー。」
「嫌です。早く逃げないと捕まっちゃうでしょ。」
「来ないから大丈夫だよ~。」
「それに冷えるし。」
「ズボン切っちゃう李桜が悪いんだろー。」
「うるさい。」
一言多かったんだろう、李桜はさらに先に行ってしまった。これからは李桜とずっと一緒だ。李桜が笑ってくれる事が俺の幸せだから。
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