異道具屋物語

@reika110

異道具屋物語【始まり編】


『前置き』

これは店に迷い込んだ高校生、宮地幸みやじこうと私の物語。その冒頭を書き綴ろうと思う。


第壱章『迷い』


あの日、幸は徒歩で帰宅していた。結構遅くなり午後9時を回るか否かの時間帯であった。幸は今日、学校で派手にやらかしてしまい、落ち込んでいた。

幸 「はぁ...授業中にスマホの着信がなるなんて...反省文10枚とは先生もひどいなぁ...クラスメイトには意地悪されるし散々だ...もう嫌だなぁ...」

学校に居ても楽しく無いし、家に居ても心が休まらない。そんな毎日を送って居た。

重い足取りで帰っているとあまり通らない路地を見つけた。気分を変えようとその路地に入って行った。少し歩いた所で目を引いた物が有った。

幸 「こんな所に鳥居?神社も無いのに何で...」

幸は訝しげに鳥居を見ていたが好奇心に勝てなかったのか鳥居の中に入ってしまった。鳥居をくぐった先は暗い森に繋がっていた。


第弐章『出会い』

全く見たことも来たこともない暗くて深い森。木の隙間から見える空は夕焼けに血を溶かし込んだかのような真っ赤な空をしていた。

幸 「え...さっきまで路地に居たはずなのに...鳥居をくぐっただけで...」

困惑している幸。しかし少し冷静に考えてみたら思い付いた事があった。

幸 「鳥居をくぐって来たからまたくぐれば良いんだ。」

だが物事はそう簡単に進まず、鳥居くぐってももとの場所には戻れなかった。ますます困惑してきた幸。まずは自分のおかれて居る状況を確認しようと歩きだした。

歩きだしてどれ位経っただろうか。ずっと変わらない景色、相変わらず気味の悪い空の色。空腹も限界になりその場に座り込んでしまった。何も食べて居なかった自分を呪いさえもした。その時、

零香「貴方、聞こえていますか?」

幸 「ん...え?」

零香「聞こえているようですね。良かった。」

幸 「貴方は...?」

零香「私は零香と申します。貴方のお名前は?」

幸 「僕は幸と言います。」

零香「幸...良い名前ですね。何故幸はここに居るのですか?」

幸 「路地に有った鳥居をくぐったらここに。」

零香「なるほど。迷ったと。近くに私の店が有ります。よって行って下さい。歩けますか?」

幸 「ええ、なんとか歩けます。」

零香と名乗る青年とも老人ともとれる口調の人について行くと、古民家風の建物が見えて来た。

零香「着きましたよ。ここが私の店、異道具屋です。」


第参章『異道具屋』

建物を少し右に迂回した所に大きな扉があり、その扉を開け、中に入った。幸は居間のような場所に案内された。

零香「まずは食事にしましょうか。何が良いですか?」

幸 「何でも良いです...」

零香「結構お腹が空いているようですね。服装からして貴方高校生ですね?」

幸 「え、ええ。そうですが。」

零香「ならばガッツリしたものが良さそうですね。今から作って来ます。」

そう言い零香は店の奥に入って行った。

店の中を見渡して見ると左右に一本ずつと真っ直ぐに一本廊下が有った。その奥は暗くて見えづらかったが、沢山扉らしき物が有ることだけ分かった。座って居るテーブルの上には変な瓶が一つ置いてある。ピンク色の液体が入って居て、001と書いてあった。

幸 「多分大切な物だろうから触らないでおこう。」

少し肌寒い風が頬を撫でたかと思ったら扉から人間とは思えない生物が入ってきた。かろうじて人間の形はしているが、肌の色、目の数、身長全てをとっても人間とかけ離れて居た。

脚山「おーい、零さん居るかい?」

幸 「あ...あ...」

脚山「ん?お前さん人間か?丁度良い。零さん見なかったかい?」

幸 「奥に行きましたよ...」

脚山「そうか。ありがとよ。」

わからなかった。あんな人間居るのか。あんな身長や肌の色なら多分世界の何処かに居るだろう。しかし、目が三つ有る人間は世界の何処を探しても居ないだろう。あの人の知り合いなのか、そうであったらとんでもない所に迷い込んでしまった。幸は心の中で後悔した。真っ直ぐに帰って居れば...


第肆章『食事』

幸 「でも...帰った所で...」

零香「お待たせしました。出来ましたよ。零香特製『三代丼』」

幸 「ありがとうございます。」

零香「熱いので気を付けてください。」

親子丼ならわかる。だが、三代丼とはなんなのか。そんな事考える暇もなく空腹故ただただそれを掻き込んで居た。口の中に広がる何処か懐かしいふんわりとした旨み。口から喉を通り胃に入るズッシリとした重量感。体が熱を取り戻して行くのが分かった。

脚山「お、居た居た。」

零香「おや、脚山さん。いらっしゃったんですね。」

脚山「おうよ。それと、ほい。頼まれてた物。」

零香「ありがとうございます。」

脚山「何時もながらに素っ気ねぇな。」

零香「脚山さん、食事まだですか?良かったら食べて行って下さい。」

脚山「良いのかい?悪いね。」

零香「どうぞ。零香特製の三代丼です。」

脚山「おお、旨そうだ。いただきます。」

脚山と呼ばれたその人は幸の三倍もの速度で三代丼を平らげて行く。幸が半分食べる頃にはほぼ食べ終えて居たほどだ。

脚山「ふー、旨かった。ご馳走さん。」

零香「お粗末様でした。」

脚山さんは丼を片付けると扉を開け、悠々と帰って行った。何者なのかと尋ねたら、「あの人は鬼の末裔です。」とだけ言った。幸は目を丸くして、考えていた。そしてもう一つ、その瓶はなんなのかと聞くと、「これは異道具であり、余り触らない方が良いですよ。」と一蹴。ますますわからない。謎が深まっただけであった。


第伍章『家族』

三代丼を食べ終わり、幸は出されたお茶を飲んでいた。その時、扉が開き、真っ白い綺麗な猫が入ってきた。ここの飼い猫だろうか。背中を見ると鞄を背負って居る。

幸 「君はここの飼い猫?それとも迷い込んだのかな?」

シロ「ンニャ~」

幸 「此処か?此処なのか~?」

シロ「いい加減に止めるにゃ!」

幸 「うわっ!猫が喋った!」

シロ「失礼な奴だにゃ。」

あれよあれよと言う間に猫は姿を変えてゆく。サラリと伸びた真っ白な髪。パッチリとした大きな目。頭には猫の名残のような耳が可愛く並んでいる。幸 「猫が人間に...」

シロ「猫って呼ばないで欲しいにゃ。私はシロだにゃ。」

幸 「シロ...」

シロ「そう!シロだにゃ!」

零香「何ですか...騒がしいですね。」

シロ「あ、ご主人~!ただいまにゃ~!」

零香「お帰り、シロ。」

幸 「この人は...」

零香「ああ、この子は七人いる私の家族のうちの一人です。」

幸 「家族だったんですか。勝手に撫でてごめんなさい...」

シロ「許可もなく触って来たから許さないにゃ。」

零香「シロ。頑張ったからソフトクリームをあげようと思ったが...お預けかな?」

シロ「ソフトクリーム...許すにゃ...」


第陸章『分からず』

やはり此処はおかしな所だ。三つ目の巨体の鬼に、人間に化ける白い猫。そして極めつけは「ご主人」や「零さん」と呼ばれ慕われているこの人だ。何者かなんてわかったも同然。この人は人間ではない何かだ。肌は病気かと心配させるくらい白く、目には光がほとんど宿って居ない。

零香「今日はもう遅いので泊まって行って下さい。」

シロ「ご主人、この人泊めるのかにゃ?」

零香「勿論。野垂れ死なれては困るからね。」

シロ「ご主人がそう言うなら良いにゃ。」

幸 「良いんですか?ご迷惑では...」

零香「大丈夫です。部屋は余って居ますから。」

幸 「では、お言葉に甘えて...」

今日は寝ないでこの店を調べてやる。そう幸が思い立ったとき、急に疲れが押し寄せて来た。そしてそのまま床に突っ伏して寝てしまった。


第漆章『ベッドトラブル』

翌日、幸はベッドの上で目を覚ました。隣には何故か虎柄の髪色の人間が寝ている。

幸 「うわっ!だ、誰ですか!」

トラ「んあ...?騒がしいなぁ...ってニギャー!」

零香「どうしました!?」

シロ「何事にゃ!」

幸 「れ..れ.零香さん..何か知らない人が寝ているんですが..?」

トラ「ご..ご..ご主人..何か知らない人が寝ているんだけど..?」

零香「トラ、此処はお客様の寝室だぞ?」

トラ「え?あ、本当だ。」

零香「君の部屋はあっちだろ?」

シロ「トラったらまた間違えたにゃ?」

トラ「そうみたい...」

幸 「この人は...」

零香「この子はトラ。私の家族です。」

トラ「トラです。ごめんなさい...」

やはり不思議でならない。シロの次はトラ...この店は化け物の巣窟か?夢であって欲しい。しかし、頬をつねっても痛かった。夢では無いことを再確認し、肩を少し落とした。


第捌章『帰り道』

軽い朝食を終えた後、幸は零香に呼び出された。居間から少し歩いた部屋だ。何を話されるのか幸は気が気ではなかった。

幸 「零香さん...お話とは...」

零香「幸。君の帰る手段が見つかりました。」

幸 「え?」

零香「昨日の鳥居の一件。あれは何かの手違いで開いたものだと思われます。」

幸 「なるほどだから飛ばされたんですね。」

零香「どうお詫びをしたら良いやら...」

幸 「頭を上げてください。入った自分も悪かったですし。」

零香「お詫びと言ったら何ですが...貴方をあの場所あの時間に送る事にしました。貴方さえ良ければですが...」

幸 「...残念ですが...受け取れません...」

零香「そうですか...理由をお聞かせ願いますか?」

幸は全てを話した。家庭内の事。学校での事。そのせいで自分自身が嫌になり自信を失くして居たことなど。全てを。零香は「少し居間で待って居て下さい。」と言い、部屋に家族全員を召集した。2.30分後、何かが決まったかのように出て来てこう言った。


第玖章『仮職員』

零香「幸。貴方は帰りたくない。そう言う事で間違いありませんね?」

幸 「はい。間違いありません。」

零香「家族全員で会議をした結果、貴方を臨時の職員として迎える事にしました。」

幸 「と言う事は...此処に居ても良いと?」

零香「ええ。貴方の気がすむまで居てください。」

幸 「良いんですか?」

零香「ただし、多少の仕事はしてもらいますがね。」

幸 「それでも良いです!ありがとうございます!」

幸は嬉しかった。居場所が出来たことに。涙すら流していたと思う。


ただ、幸はまだ知らなかった。


この異道具屋に隠された禍々しい過去を...


あの惨劇を見に染みて体験する事を...


異道具屋物語〔始まり編〕【完】


続編は後程。

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