第29話 ゆったり
ただ、到着してからさらに森の中をしばらくさまようことになるだろうから、この旅には少なくとも一ヶ月くらいはかかるだろう。
神獣、
一応、一ヶ月森をさまよっても見つけられなければ、見切りをつけて撤退する予定。自分一人ならまだしも、他の皆まで長々と付き合わせることはできない。
「師匠。結局、どうすれば
移動中、荷台のラーニャが尋ねてきた。
「うん。悪いけど、それはわからない。目撃者の話とかの情報は集めてみたけど、その目撃者もどうして
神獣に出会ったという目撃例は世界各地に存在する。
色々と話を聞いてみたのだけれど、残念ながらどうしてその
ジュナルの森の奥地であり、神聖な雰囲気のある場所ではあったらしい。ただ、正確な場所は不明で、一度森を出た後、もう一度同じ場所に行こうと思ってもその場所にたどり着くことはできなかったそうだ。
事前にある程度伝えていたが、改めて私の知る情報を皆に共有。皆、特に神獣を追いかけている専門家でもないので、私の情報からは何も判断がつかなかった。
ただ、わからないなりに、ラーニャが予想を口にする。
「
「そうだとすると、私は神獣に会いたいっていう気持ちでいるから、聖域に拒絶されちゃうかもしれない?」
「かもしれませんね。あえて神獣に会おうと思ってその神獣に会えた人っていないのでしょう?」
「そうみたいだね」
情報を集めた感じ、たまたま出会ったとか、気づいたらそこにいたとか、そこに神獣がいるなんて知らなかったとかいう話ばかりだった。
「会おうとすると会えない存在……なのでしょうかね」
「そうなると、私たちはどうやっても会えないことになっちゃうよ」
「可能性はあります。まぁ、あたしと師匠で探索用の霊獣を飛ばしまくれば、案外あっさり見つかる可能性もあります。やれることは全部やってみましょう」
「そうだね。今の時点で諦めるのは早すぎる」
「それに、あたしたちには、目撃者たちとは一つだけ違うものがあります」
「それって……エリズのこと?」
「そうです。常に精霊を連れ歩いている者なんて世界を探してもそうそういません。
エリズさんもおそらく神獣と似た性質の魔力を有しているので、聖域はエリズさんを拒絶しないかもしれません。適当に森の奥に向かっていたら、さくっと聖域内に入り込んでしまう可能性もあります」
「……そっか」
左隣のエリズは、まぁ、相変わらず私の手を握っているわけで、いやそれはどうでもよくて。
エリズは緩やかに私に微笑んでいる。
「……エリズがいたら、神獣に会いやすくなるのかな」
「さぁ、どうでしょう? わたしも神獣には遭遇したことがありません。精霊の誰かから、神獣についての話を聞いたこともありません。わたしに何か特殊な性質があるといいのですけど」
「変な期待はしないでおくよ」
「それがいいと思います。一応、わたしも頑張って探してはみますよ」
「うん。頼むね」
おしゃべりをしながら移動を続ける。途中で何度か弱い魔物との交戦はあったものの、他に事件も事故もない。実に穏やかな時間が流れていた。
悪くいえば少々退屈でもあり、ラーニャが「それぞれの故郷の歌を順番に歌っていきましょう!」などと言い出したのには困った。
歌は、聴くのは好きだが歌うのは苦手。私は飛ばしてくれとお願いしてみたものの、ラーニャ以外の三人もそれを認めてくれず、結局歌わされてしまった。恥ずかしかった。
歌が上手かったのはエリズだった。一ヶ月以上一緒にいて、初めて知った。
「歌うのが特別に好きというわけでもないのですが、歌うくらいしかやることがない時間も長かったので、自然と上手くなったのかもしれません」
とのこと。精霊の生活って、本当に暇な時間が多いらしい。
歌う以外にも、ラーニャは長すぎる移動時間を少しでも楽しく過ごすアイディアを色々と放り投げた。簡単なゲームをしたり、魔法を教えあったり。
どうやらラーニャは何もせずに過ごすことが苦手らしく、また、楽しいことを考えるのが得意らしかった。思えば、町にいるときにもいつも何かをしていた。旅に出てみると、普段は見えないところが見える。
逆に、エリズは何もしないでいることに慣れていて、ぼんやりしながら私の隣に座っているだけでも幸せらしい。
どちらが良いというわけでもなく、それぞれ違うんだな、という話。
ただ、私はどちらかというとエリズに近いのかもしれない。初夏の麗らかな日差しの下、馬車に揺られてゆったりしているだけで満たされた気分になる。
……まぁ、これには、エリズが隣にいることも、関係しているかもしれないし、していないかもしれない。
ローナとルクについては、二人が一緒にいられるならもうそれでいいという雰囲気だった。要するに、暇さえあれば常にイチャついていたわけで、こちらとしてはどうぞご自由にという感じ。幸せそうで何よりだよ。
時間はゆっくりと過ぎていき、夕方頃にベギフという町に到着。毎日どこかの町に立ち寄れるわけではないのだが、今夜は宿でゆっくり休みたい。ずっと御者台に座っているのも、なかなか疲れるものだからさ。
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