第27話 出発
五人で一緒に旅をすることに決まって、一ヶ月が過ぎた。
召喚士ギルドの補充要員も、他のギルドと兼務で二人見つかった。これで私たちが不在にしていても特に問題なく仕事はこなせるだろう。
ローナとルクの仲は順調に深まり、周囲の人からは理想のカップルとまで呼ばれている。
私とエリズの関係は、まぁ、ぼちぼち進行中。
特段進展はないものの、エリズがいつも傍にいることが当たり前になってきたし、エリズがいないと……落ち着かないというか、そわそわするというか、さび、し、い、というか? みたいな状況。
ついでに、私とエリズは一緒に行動することが多いのだけれど、エリズが自分でも稼ぎたいと言い出したので、たまに別行動することも出てきた。それが、寂しいとかそんなことはないけれど、まぁ、うん、ね。
さておき。ラーニャは私がコツを教えたおかげで、猫型霊獣をたくさん召喚できるようになった。まだパートナー登録した霊獣はいないものの、日替わりで色々な霊獣とベタベタしているし、家では猫型霊獣に囲まれて生活しているそうだ。
諸々の旅支度も順調。というか、こっちはさほど準備することもない。お金は旅をしながらも稼ぐし、食料も順次調達していく。馬などは霊獣を利用するので、これも特に準備する必要はない。
季節は、春から初夏へと移ろっている。これからどんどん暑くなる季節で、少なくとも寒さに苦しむことはない。北の方にも向かうし、季節は丁度いい。
というわけで。
想定していたよりは少し早めに、私たちはジュナルの森に向けて出発することにした。
「いよいよ出発ですね! 楽しい旅にしましょう!」
早朝、集合場所である召喚士ギルドに向かいつつ、エリズが目を輝かせながら言った。私の左手を握り、ブンブンと振ってもいる。
「とりあえず落ち着きなさいって。そもそも、この旅は私がしたいことであって、エリズの望みではないでしょ?」
「ヴィーシャさんの望みはわたしの望みです! それに、とにかく旅をするっていうだけでもワクワクじゃないですか!」
「まぁね。それはもちろん」
「ワクワクは素直に体で表現した方が楽しさも増しますよ! さぁ、ご一緒に!」
エリズが私の手を引いてクルクル回ろうとするのと、どうにかこうにか引き留める。
「だから、落ち着きなさいって! 早朝とはいえ、もう外を出歩いている人もいるんだから!」
「別にいいじゃないですかー。見られたところで何も不利益はありませんよ? 楽しそうだなーって思われておしまいです!」
「そうだとしても、こっちは恥ずかしいの! もう……エリズ、日増しに騒がしい子になってない?」
「それだけヴィーシャさんへの想いが強くなっているということです! わたしはヴィーシャさんを愛するほど元気になるのです!」
「私が何をしたっていうのさ……」
「家ではたくさんおしゃべりしてくれますし、夜はぎゅって抱きしめて一緒に寝てくれますし、甘えたいときにはよしよししてくれますし!」
「そういうことを公衆の面前で叫ぶのやめて! エリズは恥じらいというのもを覚えなさい!」
私たちがわちゃわちゃやっていたら、いつの間にか濃紺のローブ姿のラーニャが近くを歩いていた。黒い靄なので表情は見えないけれど、ものすごくにやにやしているような気がする。
熱くなった頬を初夏の日差しのせいにしつつ、挨拶。
「お、おはよう。ついに出発の日が来たね」
「そうですね。とても良い朝です。空は快晴で、気温も心地よいです。そして、朝からとても幸せそうな光景を見られて気分も上々です!」
「私たちを見て盛り上がるのやめてくれる!?」
「それは無理です。もはや、あたしは神獣を見に行きたいのか、お二人の仲睦まじい姿を見届けたいのか、わからなくなっているほどです」
「神獣を見るだけにして! 私たちのことなんて見ないで!」
「だからー、それは無理ですってー。素直になれない師匠、とっても可愛いんですもん」
「べ、別に、私はいつも素直でしょ!?」
「はいはい。そういうことにしておいてあげますよ。ある意味、確かに師匠は素直ですよー」
「ある意味ってどういうこと!?」
「さぁて、どういう意味でしょうねー?」
この一ヶ月で、ラーニャの小生意気な部分もわかってきた。私をからかって遊んでいる節もあり、悩ましい一面だと思う。
三人で近所迷惑なおしゃべりをしていると、召喚士ギルドの建物に到着。既にローナとルクが待っていた。
「朝から賑やかだね。ずっと皆の声が響いてたよ?」
「楽しげなのは良いことですが、早朝ですし、もう少し控えても良いかもしれませんね? 特に、ヴィーシャさんとエリズさんの仲良しアピールは過激すぎるかも?」
クスクスと笑う二人。二人はずっと手を繋いでいて、今日も相変わらず仲が良さそうで何よりさ……。
ローナは動きやすさを重視した軽量の鎧を着ており、背中に槍を背負い、右手に旅の荷物を持っている。
ルクは桃色のローブを着て、背中にリュック、左手に杖。花模様の髪飾りはローナからの贈り物らしく、最近はよくつけている。
また、ローナとルクの左手薬指には、お揃いの指輪。こちらは三日前に納品されたもので、それ以来二人とも常にはめている。
「わ、私とエリズは仲良しアピールしてるわけじゃなくて……っ」
「単にいつもお互いを想い合っているだけですよ!」
「それも違うでしょ!?」
「似たようなもんですよー」
「全然似てないから!」
私とエリズが言い合っていると、ローナとルクが苦笑する。
「やれやれ……。本当にこの二人は遠慮がない……」
「見ているだけで幸せになれるので、別にいいんですけどね?」
「だから! 私たちはそういうのじゃ……」
「あ、ヴィーシャ、手袋を新調したの? おしゃれな感じになってる」
「ですね。上品なベージュに、可愛らしい刺繍やリボンまで。エリズさんからのプレゼントでしょうか?」
気づかなくてもいいのに、二人が私の手袋に視線を向ける。
「そうです! 今朝、わたしがプレゼントしました! ずっと間に合わせの白手袋だったので、わたしがちゃんとしたものを用意したんです! 素敵でしょう!?」
「うん。いいと思う」
「とてもお似合いですよ」
エリズがニコニコと微笑み、さらに機嫌を良くする。いい加減大人しくしてくれ……。
「もう! 皆揃ってるし、エレノアさんに馬車借りてさっさと出発するよ!」
正確には、馬車の荷台だけを借りる予定。馬は霊獣で代用する。
そもそもその荷台は依頼をこなすときに利用するものだが、特別に貸してくれるという。貸してやるからちゃんと返しに来い、とのお達しである。
変な心配しなくても、別の町に居着いて帰ってこないということはないのだけれど。
「こうやって強引に話を終わらせようとする師匠、可愛くないですか?」
「うん。可愛い」
「可愛いですよねぇ」
「あんたたちうるさい!」
「今はどちらかというと師匠の方がうるさいですよ?」
「ぐっ」
私を師匠といいながら、ラーニャは本当に小生意気。
……いいや。気にしたら余計にラーニャを調子づかせるだけだ。
「落ち着いてください、ヴィーシャさん。ラーニャさんなりに、ヴィーシャさんに甘えているだけですよ」
「……元から落ち着いてるし」
エリズのやんわりした微笑みも憎らしい。
はぁ……。旅はエリズと二人で行っておけば良かったかな……?
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