第94話 いい匂いが悪い

 ……ずりぃ。


 …………やべぇ。


 めちゃくちゃ良い匂いがするじゃねぇか!?



(……くそっ!! 暴れまくる予定が……食いたくなるじゃねぇかよ!!)



 なんなんだ……あの人間は!?


 俺ら……アヤカシの戦意を削ぐだなんて、普通じゃ出来ねぇぞ!?


 それを……食いもんの匂いだけで可能にしようとしている。


 他の連中も、匂いにせいで……やる気を削がれてしまっているのだ。



「……め、めちゃくちゃ……いい匂い」


「く……食いてぇ」


「食いてぇよぉ……」



 だからとは言え、ここで懐柔されるわけにはいかねぇ!!



「阿呆か!!」



 俺が自分を奮い立たせ……連中らにも喝を入れた!!



「「「「お、おぅ?」」」」


「俺らの目的は……ヒトをあそこから追い出すことだろうが!? 食いもん欲しさに、目的を間違えんな!!」



 あそこは俺らの領域だと言うのを……履き違えちゃいけねぇ!!


 取り返すんだ……その場所を!!


 んでもって……あの店とやらもぶち壊すんだ!!


 決意を固めていると……野郎どものひとりに軽く腕を突かれたが。



「……兄貴こそ、よだれ」


「あ?」



 言われて口を軽く拭うと……想像以上のヨダレがべっとりと腕に貼り付いた。



(……俺のが堪え性ないのかよ!?)



 それもこれも……あの人間のせいだ!!

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