第87話 恋の表れ
「こっちにエール頼む!」
「こっちは、カツとやらを!!」
「クレープを!!」
「焼き肉!!」
「はい、ただいま!!」
プレオープンから、無事に開店となって数日。
朝ご飯を食べてから数時間後には……もうお店を開けるようになってきた。
小料理屋としては、だいたい夕方が多いんだけど。長老様達からのお願いにより……ランチ前から営業することになったのだ。昼間にも、私の料理を食べたいって。
嬉しい限りだ。
最初はいぶかしんでいたアヤカシ達だったが……露店の仕入れから、少しずつ情報が流れていったのと。長老様達御用達という事実を知り……ちょっとずつ、興味を持ってやってきたのだ。
『お客さん』として。
そして今は……然程広くないお店の中があふれ返るくらいに詰め寄せられている!
クレハもだけど……スインドさんがいなきゃ手が回らなかったわ!!
(……お通し、多めに準備していてよかったわ!)
行列……ほどではないけど、表にも何名か待ってくれているので……準備は日に日に多く用意せざるを得ない。
調理はてんてこ舞いだが……正直言って、楽しいわ!
美女神様のお陰で……腕が治って、異世界だけど……自分のお店が持てて。
相手は人間じゃないけど、きちんと食事を楽しんでくれている面々ばかり。
作り甲斐があるってもんだわ!!
「ヒロ!! カバヤキ二つや!!」
「はーい!!」
クレハが新たに注文を取ってくれたので……注文票に追加を書いておく。
こうしないと、帳簿付けに問題があったりするので記憶だけじゃダメなのだ。こう言う知識は、師匠らのお店で学んだことだけど。怪我をする前は、売り上げ計算などを手伝ったりしたものだ。
(……それにしても)
クレハは元気いっぱいに働いてくれているが……私は少し前のことが気になっていたのだ。
クレハが……草の長老様の、許嫁さんだと言うのを。
彼が食事を堪能して帰られた後に……ちょっと問い詰めたけれど。
『婚約者さんなら、なんで最初突っかかったの!?』
『……せやかて。ちょいと振りやったし』
『照れ隠しか!?』
『しゃ、しゃぁないやん!?』
ツンデレのツンがどんどん取れて……デレていくクレハは可愛いけど。
あの様子だと……いつ結婚してもおかしくないって感じだろうか? 長老様もまんざらでない感じだったし。
そうすると……店員として、クレハは働いてくれなくなるだろうか? 子供作るまでは違うかな?
(……恋かぁ)
私自身は……ちょっとずつ、変わってきている思いがある。
自分に誤魔化しをかけられなくなってきた……淡い想いが育っていく感じ。
ちらっと……調理補助に今入ってくれているスインドさんを見ると。
横顔だけなのに、真剣な表情を見て胸の奥がきゅっと音が聞こえるように感じたのだ。
(…………好き、なのかなあ?)
望みは薄いけど……スインドさんからも、好きって思われたい。
そんなわがまままで……私は思うようになってしまった。
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