【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ

第1話 大事な腕

 終わった……と思ったのが、正直な気持ちだった。


 元から、不運体質ではない。むしろ……幸運だったと思う。めちゃくちゃではないけれど。



(……だからって、これはあんまりだ)



 私は……自分の腕に巻かれているギブスを見て、またひとつため息を吐いた。


 怪我をしてしまった。


 だが、ただの怪我ではない。


 店の買い出し帰りに……車が突っ込んできて、大荷物を抱えていた私は巻き込まれてしまい。骨折はなかったが……利き腕の方の神経が傷ついてしまったのだ。


 しかも、腕が動かないくらいに。


 日常生活もだが……料理店に勤めている人間としては、絶望的な出来事。


 反対の手は生きていても……料理は片手で作業するのが難しい。


 だから……店でなにも役に立たないと、退院後に師匠である店長に決意を話して……退職してきた。


 しかし、家でいるのも辛さなどを実感するだけだと公園には来てみたが……余計に虚しさを感じた。


 何時間もベンチに腰掛けていると……いかに、五体満足の生活が素晴らしいかと……羨む気持ちしか出来なかった。


 これからの片手での生活をどうすれば良いか。


 実質障がい者となったが、料理ひと筋できたこの年齢では……何か職業訓練などで改善出来るだろうか?


 そんな考えが浮かんでも、やはり落ち込む気持ちが大きい。それほど、苦労はあっても料理人の仕事が生き甲斐だったのだから。



「……どうしよう」



 お金はなくもない。


 恋人など作らず……ただただ、調理師免許を取得するためにもと日夜技術向上や勉強に明け暮れていた。貯金優先にかなりの額は口座に入れてある。免許の方は取得出来ても……腕がこれでは転職など不可能。


 あと、年金も申請済みだ。


 身体の障がい者となったことで、二十代の私でも……額は少ないが、入院時に手続きをしたことで二ヶ月に一度は口座に入金される。


 豪遊などしなければ、日常生活程度は普通に送れるだろう。


 しかし……肉体を使う仕事をしてきた私にとって。


 まだ二十代で、何も出来なくなるのは……非常に哀しかった。



「……もっと、色んな料理……作りたかったな」



 最終は辛かった、修行も買い出しも最近は楽しみを覚えていたところだったのに。


 ほんのひと月程度で……あの一瞬の事故で、全てが台無しになった。


 事故を起こした運転手は……打ちどころが悪くて死んでしまった。


 だからって、その相手を恨んでもいけない。


 生きているだけでも、まだいいと……何度か言い聞かせてはきたが。


 やはり、現実と向き合うと……私は何も役に立たない。


 もう一度ため息を吐いてから、いい加減帰ろうと立ち上がろうとしたら……地面に穴が開いた!?

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