第四十六幕 平穏―サドンリー―
「―様。例の装置の準備、間もなく準備が終わるとの事です。」
「…そうか。」
どことも知れぬ場所、そこで中年と老年の男二人がコソコソと秘密裏に話していた。
「もうすぐ我らの悲願が叶いますな。」
「勘違いしてはならん。」
嬉しそうにする中年に対して老年の男はピシャリとその浮かれた気分を断ち切った。
「この計画は我らの悲願の序章にすぎん。喜ぶのは真に達成されたその時だ。」
「…申し訳ありません。」
「いや良い、貴様の気持ちも分からんでもない。確かにここまで来るまで時間が掛かり過ぎた。」
「ええ。…奴らさえ邪魔をし続けなければもっと早くに計画を進められたものを…。」
「…して、計画実行の日取りは?」
「そう遠くない日に。ですがその前に作動実験を前日に行いたいと考えております。」
「任せる。」
「では、吉報をお待ちください。」
そう言うと中年は闇の中に消えていった。
一人その場に残った老年の男は誰に聞かせる訳でも無く宣言する。
「見てるがいい。我らが悲願、
いや、あるいはその男には見えていたのかも知れない。
自分らの計画を邪魔してきた憎き存在が、その狂気にも似た黒い眼には。
「全ては清き世のために。力無き者には
「いやー!!かなり遊んだな!!」
信二が体をほぐしつつ明るく言った。
対して言われた方である叶夜は少し不機嫌そうにして信二の後ろを歩く。
「何だよノリが悪いぜ叶夜。もっとテンション上げて行こうぜ!」
「そうだな。テスト明けの翌日の早朝にいきなり家に現れては遊びに連れまわされなければテンション上がったかも知れないな。」
叶夜は恨みがましく信二を睨みつける。
二人が通う緑真高校では昨日まで期末テストが行われており、疲れていた叶夜の予定では一日休むつもりだっただけに普段より声にドスが効いている。
「でも、私はこういった事は初めてですからとても楽しいです。」
信二をフォローするように睦が本当に楽しそうに笑顔で言う。
叶夜と同じく早朝から色々な場所に引っ張り回されたはずであるが、未知の経験が楽しい為かその顔にはまだまだ余裕が見える。
「そうね、私も新鮮な気分。…流石に早朝からは勘弁して欲しかったけど。」
睦の意見に賛成しながらも叶夜に同意した八重にも少しばかり疲労が見える。
この四人、つまりはいつもの【妖怪研究同好会】の面々であるが実は誰一人としてテストの結果を気にしている者は居ない。
元々普段から平均点は取れる叶夜と成績優秀な八重は言うまでも無い。
信二も赤点を取るほど頭は悪くない上に勘も働く。
睦もかなり頭は良い為、平均は取れているという自負がある。
唯一の睦の不安は英語であるが、それでも叶夜と八重の二人に教えて貰ったのでそこまででは無い。
つまりこうしてしがらみ無く四人で遊べているのもテストの結果を気にしなくてもいいからであった。
(…まぁ、近くに約一名受けていないだけでテストを受けていたら確実に赤点だったろう
と思いつつ叶夜はその人物が見えていない信二にバレないように後ろをチラッと見る。
「おおっ!!コレはこうするのか!」
そこにはガチャガチャを回す子どもを羨ましそうに見つめる世にその名を
「「…はぁ。」」
叶夜は偶然目のあった八重とため息を重ね合わせる。
何が悲しくてあんな大妖怪の姿を見なければいけないのかと叶夜は悲しくなってくる。
「…アハハ。」
睦も流石に苦笑いをするのみで玉藻をフォローをすることは無かった。
そもそも玉藻は叶夜の付き添いのような形で学校に来てはいるが、授業は全く聞いていない。
実際、玉藻にはこれからも必要の無いものではあるが以前興味を持った叶夜が小テストみたところ簡単な算数以外は全滅という残念さであった。
「い、いやこれは違うぞ叶夜。当世のやり方が分からぬ故にこうなってしもうたが我が本気で学べばこの程度…。じゃからその可哀そうな者を見る目で我を見つめるでない!」
と叶夜の視線に耐えられなくなった玉藻は訊いてもいない弁解をしていたが、この様子を見る限りではとても真実とは思えない叶夜であった。
「…佐藤君、叶夜君。少し離れるわね。」
「ん?どうかしたか?」
信二がそう聞くと八重は少し不機嫌そうにしてお手洗いの方に視線を向ける。
「バカね。お花を摘みに行くに決まってるでしょ?そのぐらい察しなさい。」
「あ、ああそう言う事か悪い悪い。」
流石にデリカシーぐらいはある信二はバツが悪そうにする。
それを気にした様子も無く八重は叶夜の側を通ると、そっと耳打ちする。
(ついでにあそこにいる狐を引っ張って来るわね。)
(…サンキュ。)
そう言うと八重はお手洗いにツカツカと向かって行く。
「でしたら私もお花を…。」
そう言って八重の後を追うように睦もお手洗いに向かう。
実際は玉藻を連れて来る手伝いをするためについて行った事は叶夜にも理解しており申し訳ない気持ちになる。
「さて、女子二人がいない間に聞いておこうか叶夜。」
「ん?何をだ?」
「決まってるだろ?龍宮寺八重と安藤睦、どっちが本命だって話だよ。」
「…はぁ~~。」
「おい、そんなにため息吐く事は無いだろ?」
「吐きたくもなるだろ。お前までそんな事を聞くのかよ。」
「そんな事は無いだろう。今の縁真高で一番ホットな話題だぜ?」
叶夜はもう一度ため息を吐きたくなるような気持ちをグッと抑える。
以前から八重と睦との三人で三角関係を疑われていた叶夜であったが、合宿時の三人での朝帰りが高校中に広まり職員室に呼ばれる事態にまでなった。
今では八重と睦、どちらと付き合うもしくは付き合っているか食券をチップに賭けが行われるほどである。
それとは関係なく二人と別れろと言ってくる奴も多く、以前はガタイの良い先輩に屋上まで呼び出された事もあった。
幸いにして八重にラブレターを渡してくれというお願いであったが、あの時は痛めつけられる事も覚悟するほどであった。
その為、叶夜がこの話題を避けたがるのは仕方がない事であろう。
「いいじゃんかよ。長い付き合いだろ?せめてどっちが好みかぐらいは教えてくれてもいいじゃんか。」
「そうね~。それは私としても気になるわね。」
「それこそどうでもいい…ん?」
そこで叶夜は違和感を感じる。
話していた信二も同じようで互いに顔を見合わせる。
八重と睦は未だ戻ってきていない、玉藻はガチャガチャに夢中(そもそも信二に玉藻の姿と声は見えないし聞こえないが)。
ならば会話に加わって来たこの声はどの女性のものだろうか?
二人が恐る恐る声のした方向を向くとそこには一人の着物の女性がニコニコしながら立っていた。
「二人とも少しお話、いいかしら?」
優しく問いかけてきたその女性に対し二人は頷いてしまうのであった。
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