第578話 『久しぶり、マザー』

『この状態は世界中に散った『フォトン』による擬似的な投影です。青い軌跡をご覧になられましたか?』

「ああ。建物を透過してし来たから警戒したが、傷がかなり回復した。『フォトン』てのは、生物の生態に干渉する技術か」

『ローハン様。機密保持の為に私はそれ以上をお答えする事は叶いません。唯一語れるのであれば……ローハンの仮説は『フォトン』の効果の一つ、とだけ』

「『吸血族』を太陽の下に戻した時は翠色の粒子だったな」


 ドレッドの説明を聞きながら、関連する事象で覚えてるモノを思い起こす。


『アレはマザーも意図せぬ行為でした。故に行使した【戦機】ボルックは拘束。そこへ、カイル様とレイモンド様がいらっしゃいました』

「ぬ……二人は無事か?!」

『ひ、酷いことをしてたら許しませんよ!』


 ボルックを拘束したと言う事実から、迎えに行ったカイルとレイモンドに対して隔たりが出来た可能性は高い。

 それを察したスメラギとリースは慌てた様子だが、オレとしては織り込み済みで二人を向かわせたのだ。


「二人は元気か?」


 まずはこっちとの敵対の是非を問う。あっちが失敗したなら、後々迎えに行かないとな。


『ご説明いたします。『永遠の国』で何が起こったのかを――』


 ドレッドは語る。

 カイルとレイモンドの拘束。『死病』。炎の五番勝負。『EXプロトコル』。超新星爆発。など――


「ふむ……よくわからぬな……」

『ちょうしんせいばくはつってなんですか?』


 二人がわからんのも無理はない。眷属と天文知識が絡んでくる問題だ。

 ササラはドレッドが告げた事がどれだけヤバい事なのか理解して唖然としているな。


『世界の消滅は『星の探索者』によって防がれました。今一度、彼らを私達の元へ導いてくれた貴方がたに感謝を』


 ドレッドは再度、丁寧な礼にて頭を下げる。


『そして、御三方は今、可能な限りの優遇を持ってして我が国で今休んで貰っています』

「無事なのだな」

『よかった……』


 ほっと胸を撫で下ろすスメラギとリース。あっちの問題は良い感じで幕を下ろした様だ。


「ドレッド、三人に伝言を頼む」

『なんなりと』


 悪いが『アステス』の復興に関わってる時間はない。こっちはこっちの事情を進めなきゃならん。


「オレ達の問題は無事に終わったから『オベリスク』に向かってクロエとサリアと合流する。お前達も可能な限り回復したら即、合流しろってな」

『確実にお伝えします。ローハン様、不躾ですが……私から提案を宜しいでしょうか?』

「頼み事は無しにしてくれ。こっちも手一杯でね」


 本格的に『オベリスク』を攻略せにゃならん。


『ありがとうございます。『アステス』は今後も『星の探索者』とは親密な関係を取りたいと思っております。その友好の証としまして『Tタイプ』を一機、お側に置かせてもらえませんでしょうか?』

「見張り役か?」


 オレはストレートに問う。

 何せ、今行われてるドレッドとの会話はササラが起点だったからだ。『機人』は『アステス』産。『オフィサーナンバー』が『機人』の情報を覗けるならこっちの動向が垂れ流しになる可能性は高い。


『故に微力ながら協力させて欲しいのです。それに『アステス』の力が必要でありましたら、即座に連絡できる者が近くに居ればスムーズに話し合いも出来るでしょう』

「言っておくが相当無茶するぞ? 世界の流れが変わるかもしれん」

『それが良き方向でしたら『アステス』に異論はございません』

「それはマザーも容認してるのか?」

『勿論です』


 つまり、無茶しない限りは要望にも応えてくれるってことか。聞いてた話よりも随分と融通が利くな。

 カイルの脳筋思考とレイモンドの意思が良い感じに『マザー』に答えを与えたか。


「分かった。こっちも身の回りの負担は色々と軽減したい所だったから、その提案を受ける」

『ありがとうございます。『T-63』』

「うはい!」


 急に呼ばれてササラは返事が変になってるな。


『個体名はありますか?』

「え……?」

『二度は言いません』

「あ……サ、ササラっす」

『ササラ、ローハン様達に付き従い、彼らの補佐を行いなさい』

「はい!」

『ローハン様、彼女で宜しいですか?』

「別に良いぞ。お前らは?」

「異論はない」

『私もです』


 その答えにドレッドは、にこ、と微笑む。すると、ササラがおずおずと手をあげた。


「あの……リーダー」

『配置に不満がありますか?』

「い、いえ! 全然っ! 全然ないっす! でも……ウチ……」

『『マザー』の意思です。自我を持つ『機人』の意志を尊重せよ、と。無論リセットを望むのでしたらそれも構いません。その場合は『アステス』に帰ってきてもらいますが』

「あ、いや! ウチはササラっす! このままで働きます!」

『では、くれぐれもあるじ達に迷惑をかけぬよう。抜き打ちで様子を見に行きますからね』

「うっ……頑張るっす」

『ふふ。それでは、ローハン様、スメラギ様、リース様、失礼致します』


 ドレッドの姿はお辞儀の姿勢を取ったまま消え去った。


「……って事で! 宜しくっす!」


 悩みが無くなったらササラは元気にそう言うと、共に『オベリスク』へ来る事になった。


 さて……『オベリスク』の方はどうなってるかね。正直、あっちが一番読めないんだよなぁ。


「ま、クロエなら大丈夫だろ」


 と、客観的に考えていたが結果的に『星の探索者』が全員揃わかったらヤバかったと言う事を追々知る事になる。






 とある通信――


『久しぶり、マザー』

『久しぶりです。この回線を使ったと言う事は結論が出ましたが?』

『ええ。シルファリオンの肉体はもう火葬して構わないわ』

『…………』

『どうしたの?』

『いえ、本当に良いのですか?』

『ふふ。なんか変ね? 昔の貴女ならそんな思考は挟まなかったのに』

『それが間違いを生むと気づいたのです。もう一度確認します。本当にシルファリオンの肉体――貴女の肉体を火葬しても構わないのですか?』

『ええ。私はシルファリオンじゃなかったから。“ストリングドール”であるとシャクラカンが教えてくれたの』

『貴女の状況は『死病』に近い症状であった故に、気がかりだったのですが……他にも治療法があったのですね』

『私限定だから他には対応出来ないわよ』

『話を戻しましょう。確認です、シルファリオンの肉体は火葬。その決断に間違いは無いですね?』

『ええ』

『火葬の方法にご要望はありますか?』

『……一緒に逝かせて欲しいヒトが居るんだけど、遺体を回収しに来てくれないかしら?』

『構いません。ワンを向かわせます』

『ありがとう』

『ちなみにどなたですか?』

『彼女の半身。きっと、いち早く隣で『物語』を聞かせたいと思うから――』






 音も風もない大地。

 天地を揺るがす咆哮が響かせ――

 ドラゴンは世界へ戦意をばら撒いた――

 動き出すのは歯車ではない――

 変えられぬ運命さだめでもない――

 世界を越え、時を越え、悲しみを越え、ドラゴンは望む。


 己と物語を綴る『英雄』を――



※『とある竜の物語』『序章』より抜粋。

著者――ストリングドール――




『ゴルド・イン・ザ・オールドワールド』完!(ドン!)

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