第26話 最期



白き少女の頭が落ちた瞬間。彼女の体は剣もろとも崩れ落ち、先程と同じように液状へ還った。


(...第三形態...次が、最後の...!!)


ボウッッ――


それはまるで巨大な火の玉。私がこのダンジョンで始めて狩った魂のカタチそのものだった。


「――ッ!?」


部屋全体に燃え上がるような熱気が充満し、私は体を丸めた。


(あっっつい!!?)


至近距離にいるせいで直に炎に照らされ、体が焼けるように熱い。っていうか焼けているのかもしれない。目を開けられない。


ミオちゃんの魔力がガードしてくれていなければ、既に燃え上がり死んでいる...そう思わせるような高温状態。


「アカリ!!」


――ミオちゃんが叫ぶ


「火の玉の大きさが...小さくなっていってる!!もしかするとこれが最後の攻撃なのかも!!」


飛んでくる熱風を手で遮りながら、薄目でモンスターを視認する。


(...!! 黒い、靄が!!)


その火の玉はドス黒い靄がかかり、体積が減少し続けていた。それに伴いどんどんと熱が上がり続けている。


これを凌ぎ切れば...私達の勝ち?でも、これじゃあ...。


――既にアカリの纏う衣服が燃え始め、皮膚も焼けつつあった。火の玉の体積の減少速度、熱の上昇速度。アカリの体が耐えきれない事は明白だった。


そして、もう一つ。ミオは可能性に気がつく。



「アカリ、もしかして...この温度の上昇は...」


「...?」


――火の玉は電気のようなものを放ち始めた。


「自爆するためのエネルギーを溜めているんじゃ...」


(――!! そうか、もしかして...これって、ボス戦でよくある制限時間内にHPを削り切るってやつ...!!)


タイムアップは勿論、プレイヤー達の全滅。


「アカリ...」


「...」


あまりの熱気で呼吸すらままならない。体が燃え上がり出した。


「ありがとう」


と、ミオちゃんの声だけが聞こえた。



火の玉はついに手のひらサイズまで体積が減少。おそらく、たとえここから猛攻を仕掛けたとしてもまったく間に合わないだろう。



――ビシッ



と、何かが割れる音がした。



予測どおりの自爆だ。魔力が火の玉を割り、漏れ出した瞬間。


「アイテム、ボックス」



私は――



目の前へアイテムボックスを出現させ



――走馬灯。




中学校でのいじめ、ひきこもり、ゲーマーに...そして、ミオちゃんと出会った時の幸せな記憶――


彼女の笑顔が、視えた




「――解放」




音を置き去りにする、青い爆光



衝撃が叫び爆音が轟く




――キィィィン――オオッ




オオォオオンン――




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...




その超爆発は、部屋の全てを吹き飛ばした。壁が真っ黒に焦げ、放出した山のようなアイテムは跡形もなく消えり、バチバチと魔力の残滓が青い電気となり残っている。


残ったのは、クリア報酬らしき漆黒の黒き箱。



――黒々とした煙が、ゆっくりと霧散した。



「...アカリ...」


ミオの泣き声が、殺風景となった部屋に響く。






















「...な」












「...なか、ないでよミオちゃん。...私、死んでないよ?...生きてるんだからさ...」






♪パパパーパーン♪






――コンテンツクリアのファンファーレが鳴った。




「あー、しんど...なーんまら、怖かったあ...」



私は両腕を放り投げ、大の字で床へ寝転ぶ。



「アカリ、火傷...」


「...うん。でも、大丈夫...ありがとう」




――大爆発の直前、解放したアイテムボックスに入っていたもの。それは、私達が唯一勝っていた物。



ミオちゃんの途方も無い魔力量。



事前にアイテムボックスの中へ放出し...時間ぎりぎり、限界まで溜めていた魔力。それを自爆に合わせ、解放した。それにより発生した超高濃度の魔力の塊は強固な盾となり、爆発から私の体を護った。


私の体にとどめておける魔力量は限りがある。レベルが55に制限されているのもあって、この自爆を受け切る魔力を纏えはしなかっただろう。


けど、アイテムボックスは違う。いれられる物量に限りは無く、上限もない。だからミオちゃんの魔力を流し込んで高密度の魔力壁を作ることに成功した。


耐えられるかどうかは賭けだったけど...五体満足で、火傷くらいしかないところをみると大成功だ。


「...ミオちゃん」


すんすん、と泣いているミオちゃんがこちらを向く。涙を拭いながら。


「...な、なに」


「護ってくれてありがとう!やっぱり、ミオちゃんいないとダメだったね」


私が笑うと、彼女は抱きついてきた。


「ぶ、無事で...よかっ、た...」


そう言って、ミオちゃんはまた泣き出してしまった。




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