第20話 転送



「ミオちゃんは、それを知りながら...」


「...そうよ。あたしはデバッカーとして生まれたAIプレイヤーだから...」


ミオちゃんは俯き頭を下げた。


「ごめんなさい。謝って済む事では...ないけれど、あたしにはどうにも出来なかった...」


その時、私はハッとした。そんなつもりは無かったけど、責めたような物言いになってしまった事に罪悪感が生まれる。


「こっちこそ、ごめん。ミオちゃんは悪くないのに」


「え?」


「だって、ミオちゃんがやりたくてやってるわけじゃないんでしょ?」


「...まあ、あたしは。でも...帰りたいでしょう」


「帰る...か」


んー、帰ってもなあ。実際問題、ひきこもりしてるよりこっちでこうして遊んでた方が良いような。戻るメリットってあるのかな?


「無いな」


「...?」


「私は別に帰りたいとかはないよ。この世界好きだし」


「で、でも、家族とか...リアルには大切な人がいるんじゃないの?」


大切な人?ああ、そういうのなら。


「大丈夫。私の大切な人はミオちゃんだから!」


「...え」


「戻る必要ないよ。ずっとミオちゃんと一緒にいたいし!だめ?」


「だ、だめ...じゃない、ケド」


「それにね、私、感謝してるんだよ」


「感謝?」


「だって開発者さんがこのゲームを作ってくれたからミオちゃんと出会うことができたんだし!」


口元を一文字に閉じ、ミオちゃんの顔が赤らむ。かわよ。


そりゃあたくさん怖い目にあったし死にそうな目にもあったよ。けど、それでもミオちゃんと出会えて良かったと心から思える。


もし今ログアウトボタンが復活して戻れるとしても、またミオちゃんに会いに絶対ログインしちゃうくらいには大切な存在になってる。


「って、早く戻らなきゃ!ここで三年は流石に嫌かも!」


「...だね!行こう!」


――ズル...


ゾワッと肌が粟立つ感覚。振り向くとそこには、そこらの木々をこえる高さまで頭を持ち上げた大蛇が居た。


漆黒の大蛇。


「え」


音がしなかった。これほどの巨体。どれだけ静かに動いても必ず音がするはず。どうして...


【シャドウヴァイパー(霊体)】クラスA+

・巨大な体を持つ神域の大蛇。強酸性の猛毒牙を持ち、俊敏な動きから繰り出される体当たりや叩きつけは途轍もない破壊力となる。影に溶け込み音もなく獲物へ近づく。別名、死淵龍。


「アカリ、にげ――」


――ボゴオッ!!!


ぎりぎりで《黒錆ノ刀》を取り出しガード。ミオちゃんも同化し、魔力を武器に魔力を巡らせることに成功した。しかし、あまりの力に木々をへし折りながらふっ飛ばされていく。


「――ぐっ、く」


「アカリ!!体の後ろ、後頭部と首に魔力を集めて!!」



――ドオオォオオンン!!



かなりの距離を木々を薙ぎ倒しながら飛ばされていた私。巨大な壁に叩きつけられようやく止まった。


「いった、ぁ...何あれ」


背後を確認すると大きな木製の扉があった。え、誰の家...って、あれ?


「すごっ、怪我無いじゃん!ミオちゃんありが...ん?」


喜びお礼を言おうとした私の目の前に、唐突に《転送》の文字が浮かぶ。


...転送?え、どこに?なにこれ?


「ねえ、ミオちゃん転送って」


見上げたミオちゃんが今までに見たことの無い顔をしていた。青ざめている。


「ど、どうしたの!?ミオちゃん具合悪いの!?」


「...落ち着いて聞いて、アカリ」


視界が歪み、周りの景色が暗くなった。


「...あなたは今からダンジョンボスと戦わなければならないわ」




「へ、へえ」




え?...え?




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