地を這う復讐者達の鎮魂歌

武田コウ

第1話 落下

「話って何?」


 パーティのキャンプから離れた崖際。シンと静まり返った夜中に、チームのブレーンである魔導士のアリスから呼び出された女騎士バーバラ。


 護身用の剣だけ腰に下げ、旅の最中は身につけている板金鎧はキャンプに置いてきたラフな格好。


 やってきたバーバラを見て、アリスはその端正な顔に微笑をたたえながら小さな声で言った。


「バーバラ……あなた、勇者様の事どう思ってるの?」


「どうって……急にどうしたの?」


 そう、このパーティは俗に言う【勇者のパーティ】と呼ばれるもの。


 魔王討伐のため世界各地から選別されたエリートメンバーと、その中核となる【勇者】の称号を持つ戦士によるパーティだ。


 しかしアリスは急にどうしたというのだろうか?色恋沙汰なら勘弁して欲しい。


 バーバラは剣に生きる女だ。小さなころから周囲の女たちがギャーギャーとやかましく騒いでいる色恋沙汰の話はどうにも苦手だった。


 勇者のことは剣士として尊敬しているし、チームのリーダーとして認めてもいるが、それだけだ。


 その事を伝えようと口を開いたその瞬間。「ドスッ」という鈍い音と共に、背後から衝撃。


 視線を下ろすと、自身の胸から飛び出した銀色の刃。血で濡れてヌラヌラと輝いている。


 首を回して背後を確認する。


 そこにいたのは、同じく勇者パーティの一員である、シーフのクライヴ。


 剣を抜刀して背後を切り払うも、すでに彼は間合いの外。


「悪く思うなよバーバラ。オイラはアリスに逆らえないもんでね」


 そう言ってクライヴは意地悪く口角を吊り上げた。


 いくつもの疑問が頭に浮かぶ。しかし、その「なぜ?」を考えている時間はなさそうだ。


 先程の背後からの一撃。寸分狂わずバーバラの心臓を貫いている。


 急いで治癒を施さなくては間もなく絶命するだろう。


 思考が加速していく。


 心臓を貫かれた痛みを強制的に頭から追い出し、目の前の二人に飛びかかる。


 まずは敵の排除。ソレ以外のことは生き延びたら考えればいい……。


 しかし、鬼気迫る勢いで飛びかかってくるバーバラにアリスは微笑みを絶やさぬまま木製のステッキを構えた。


「”カウンターファイア”」


 アリスの足元から吹き出す分厚い炎の壁。バーバラはその壁に正面から突っ込んで……。


「……ッ!?」


 声にならない叫び声。


 全身を炎に包まれたバーバラはバタバタと暴れまわり、そのまま体勢を崩して崖から転落した。


 闇の中に落ちていくバーバラを、アリスはどこかうっとりとしたような表情で見送るのだった。




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