今日も勇者は愚痴が多い
たぬぼん
第1話 9月13日
ーーーーーーーーー
これはごくごく普通のアルバイト男性が気だるげに魔王を倒す物語
勇者が残した日記を物語に起こしたものである
ーーーーーーーーー
1日目
いつも通りの休日を過ごそうと思っていたのに、母さんに叩き起こされ市役所へ行くことになった。
市長室に通され、市長本人から説明が始まるが俺は寝癖が気になってそれどころではない。
なんなら靴下も左右が別だ。どんだけ慌ただしいんだよ俺は何も聞いてないぞ。
気だるげな調子であるが、寝起きなんてこんなもんだ。普段はもう少しシャキッとしている。
失礼なのは承知だがあくびが出てしまい、母から引っ叩かれる。
市長も呆れていたが仕方ない。
長々とありがたそうなお話をいただくが、要約すると「お前は勇者に選ばれた。魔王を倒すまで家に帰るな」ということらしい。
はっきり言って意味が分からない。
俺が勤めてるレンタルビデオ屋は?と聞いたが他の従業員には多額の金を払って店を潰したらしい。俺もそっち側がよかった。
俺はと言うと、オロナミンC2本、カロリーメイト5箱、ポカリスエット2リットル、梅おにぎり2個、ポケットティッシュを渡された。現金の支給は無いらしい。
同僚の高橋に金をせびりに行こうかと思ったが雰囲気的にやめたほうが良さそうだった。
この「風邪を引いたときに友達がくれるものベスト5」みたいなものを防災袋に入れて旅立てとのことだった。もう少し良い支給品あったろ、ビデオ屋潰すのに全力すぎるだろ。武器も無しかよ。というか魔王て何?
ちなみに今の装備はジーパンにTシャツだ。ここまでラフな格好で勇者任命式に来たやつは初めてらしい。そもそも俺は何も知らされていない。
母さんは終始黙って話を聞いていたが、小学生の時に家庭訪問のプリントを出し忘れて担任が来た後にこれでもかってくらいに俺を叱ったことに掛けて問い詰めてやろう。
準備をするために帰ろうと踵を返したところを秘書に捕まった。おいなんだ、俺はシャワーを浴びたいんだ。
どうやらこの市長室から旅立つらしい。何を言ってるかわからない、ここ窓もないし5階だぞ。
市長の机の下にもぐれと言われ、しぶしぶ移動する。
ほんとにこれ勇者の扱いなの?
何の意味があるんですか?と聞いても、直前になって怖くなって逃げるやつがいたから入り口を市長室にした、との返答だった。
逃げないから一度家に帰してくれ、旅立ちが寝癖状態なんていやだ。
「入ったかい?」
「入りましたよ」
「1日の終わりに日記を書くこと、いいね?」
「は?日記?何?」
「よーし行くぞー!」
掛け声とともに市長の椅子が迫ってくる。いやいや小学生のいじめかよ!痛いやつだよ騙されてるじゃんやっぱりくっそ!
反射的に顔を手で覆い、防御態勢を取る。しかし何もぶつかってこない。
は…?と手をどけると、自室の勉強机に潜っていた。
夢だったのか?なんだったんだこれは…しかしひどく疲れていた。
もう寝ようと思ったが、最後に言われた「日記」が引っかかり、書いてみるのも面白いなと思った次第である。
ノートなんて久しく使っていないため、バイト先で使用している業務ノートに書いてみようと思う。
【OKビデオ業務ノート】
業務内容などほぼ書くこともないが年単位で使用しているためボロボロだ。
まだ使用していないページに書こうと開くが、メモ内容が全て消えていた。
ボールペンで書いているため消すことなど不可能だと思うのだが、きれいさっぱり無くなっている。
不審には思うが、まあいいや。必死に今日あったことを記す。眠すぎる。
9月13日、今日の記録は以上だ。寝る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます