第20話


「それで、確認なんだが、セレスティンは精通はきているのだろうか?」


 ああ、それな。そりゃ、閨教育するんだから精通してなくちゃどうにもならんよな。うん、わかる。わかるんだが、それを俺の口から言わせるわけ?そりゃあ、まぁ、婚約者であるから、聞く権利?はあるんだろうな、やっぱり。


「え、と……ま、だ、です」


 隠したってしょうがないから正直に答えてやるさ。じつはまだなんだよ。まだ来てないんだ。前世の記憶だと中等部、つまり中学生ならもう夢精ぐらいしていてもおかしくない年頃なんだとおもうのだが、まだ来ていない。これは本当だ。十六で成人するんだから、体の成長もそれに合わせて早いと思っていたのに、俺の体はまだ精通していない。そもそもエッチな夢とか見たことないんだよな。


「……そうか、分かった」


 ジーク様が俺の事をじっと見つめてきた。これは、隠したって無駄だぞってことなんだろうな。まぁ、夢精をしたら俺の世話をしているメイドさん経由でソッコーバレるんだろうな。大抵初めてのって夢精だよな、きっと。


「あ、の、精通したら……ジーク様に伝えるんですか?」

「いや、メイドが伝えてくれるから大丈夫だ」

「あ、うん……そうなんだ、やっぱり」

「アルトもメイド経由では母上に報告されたが……その、貴族の家庭では普通のことだと思うが」

「うん、そう、だよね。洗濯物で、分かっちゃうよね」


 前世の記憶だと、夢精して驚いて、一人でこっそりパンツを取り替えたと記憶している。だから、その日の洗濯物に俺のパンツが二枚あったから母親にバレたんだと思う。だから、こっそり手洗いしてしまえば逆にばれない?浄化の魔法は、俺使えないや無理だ。


「焦らなくていい、俺はセレスティンに無理はさせたくないからな」

「……は、い」


 ジーク様はその後俺の頭をひとなでして、おやすみのキスを額にして自分の部屋に戻って行った。俺は扉がしまったのをぼんやりと眺めたあと、風呂に向かった。公爵家の優秀なメイドさんたちはジーク様の気配が去ったのを確認してすぐに風呂の支度をしてくれる。まぁ、魔法でするからあっという間なんだろうけれど、俺好みの温度でたっぷりのお湯が用意されているから毎日快適で仕方がない。やっぱり日本人は風呂に入って心も洗濯だよな。


「ああ、疲れた」


 ジーク様と二人っきりで話をするのは正直しんどい。言葉選びを一つでも間違えたら、またあの時のように絶対零度が降ってくるような気がして恐くて仕方がない。だけどあからさまにそんな態度を取る訳にも行かないから、タメ口みたいな言葉を混ぜて話をしている。おかしな敬語混じりでジーク様と話が出来るのは婚約者の俺だけなんだぞ。ってそんな雰囲気を出せていると思う。

 んで、ジーク様の指示らしく、俺の風呂の世話は誰もしない。さっき話していた閨教育もそうだが、俺の肌に誰かが触れるのを禁止しているようだ。まぁ、前世の記憶があるから一人で風呂に入って頭も洗えるけどな。お湯だって魔石が俺の好みのお湯を出してくれるから、シャワーが熱いとか冷たいとかなくて最高だ。


「あースッキリした」


 メイドさんが出しておいてくれたタオルで軽く頭を拭いて、体を拭いたらパジャマを着てそのままタオルを頭に被ったままソファーに向かう。風呂上がりの一杯である果実水を飲んで、ドライヤーみたいな生活魔道具で髪を乾かす。以前はただ魔法ってすげーなって思っていたけれど、ここが乙女ゲームの世界だって分かったら納得する。

 やっぱり女の子が可愛くあるためのアイテムは必要だよな。ドライヤーもそうだけど、メイク道具も前世日本で見た事があるやつが何故か俺の部屋にもある。まつ毛をクルンってするやつとか、髪の毛をクルクルするやつとか、脱毛器まであるのはさすがに恐怖なんだがな。


「明日も早いのですから、もうお休みになられますか?」

「ああ、うん……そうだね」


 ジーク様が早く登城するようになった(王子の護衛のため)から、必然的に俺も早起きしなくてはならなくなった。何せ婚約者だからな。一緒に朝食を食べてお見送りをしなくちゃならないんだ。学園で待機ってしちゃダメとか、マジでブラックだと思う。だからといって、ジーク様が城内に住んだらそれはそれでジーク様のしんどそうだ。でもそうなったら俺は気が楽なんだけどな。

 そんなことを考えながら俺はベッドに入った。メイドさんが天蓋を下げてくれて、部屋の明かりを暗くしていなくなる。そうしてようやく俺はひとりきりなれるわけだ。


「明日から授業中にジーク様が教室にいるのかぁ」


 考えただけで気が滅入る。回避したいけれど、成績を落として下位クラスに行くわけにはいかない。だって俺は公爵家嫡男の婚約者だからだ。公爵家に恥をかかせないように努力をしなくちゃならないだなんて、ほんと、悪役令嬢みたいだ。


「ああ、マジでしんどい……めんどい」


 俺はそんなことを考えながら眠りについた。だから当然眠りは浅く、翌朝なんだか余計に疲れてしまっていたのだった。

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