第8話 問題解決は前途多難。


 一先ず、宮殿から外に出た私達は、


『先に人目に付かない場所に移動してから用意する? あとは湖外に出て〈空間転移〉して』

『それがいいかも。宮殿は問題が無かったけど外に出たら〈転移禁止区域〉になっていたし』

『私もそれに同意かな。この状態のままだと』


 宮殿の一角から駆け抜けるように離れた。

 それは離れるに至った原因が現れたから。

 私達が宮殿の庭園に出た途端にブワッと大量発生したのだ。離れるに至った原因達が。


『精霊達が群がって先に進めないもんね』

『下位精霊の総数からしたら少ないけどね』

『『『正直言って、気持ち悪い!』』』

『見慣れてないとそういう反応だよね?』


 そう、人魂のような色とりどりの下位精霊が押し合いへし合いで私達の周囲へと集まった。

 それも六色かつ私達の眷属精霊達がね。

 精霊が見える者に気取られると精霊の中心に何かが居ると駆け寄ってくるから逃げたのだ。

 この状態での隠密行動は不可能に近いから。

 ただ、気持ち悪いと言われたからか、


『撒いても撒いても付いてくるよぉ』

『お、お尻、お尻に群がらないでぇ』

『あ、あ、頭の周囲は止めてぇ!?』


 三人の周囲には今まで以上に眷属精霊が溢れたけれど。ただこれも、自分達の主人が初めて顔を出したから、としか言えないね。

 若結モユは身体に纏わり付かれる。

 風結フユは雄精霊に好まれている。

 知結チユは雌精霊に好まれている。

 一方、私達の眷属精霊達はフヨフヨと周囲を飛び回るだけだ。


『この子達は割と』

『大人しいよね?』

『久しぶりって寄ってくるだけで』


 数が数だから流石に鬱陶しいけどね。

 しかも私と風結フユの居るところだけが妙に明るいしね。これも属性の輝きだけど。

 その際に一匹の聖精霊が私の耳元で囁く。


『ん? お腹が空いてる?』

『下位精霊が姉さんに空腹を訴える?』

『上位を無視して? まさか、それって』

『うん、神素の欠乏状態だよね?』

『なら、魔法が不発になるのは?』

『備蓄が空っぽって事? でも離れる前に』

『うん。最大量まで収めていたはずだけど』

『一体、何があったのよ?』


 事実に気づいた私達は顔面蒼白となった。

 一先ずの私達は神力を最大量練り上げて、


『ごめんね。気づいてあげられなくて。今から大量放出してあげるから、離れた離れた』


 三精霊達がフヨフヨと距離を取ったと同時に私達は同心円状に己が神力を大放出した。

 すると濃密地と拡散後の希薄地が出来た。

 下位精霊は希薄地で嬉しそうに飛び交った。

 私が精霊に『離れた離れた』と言ったのは精霊の位階次第で受け取れる神素が異なるのだ。

 結依ユイ実依マイを中心とした一角でも私と同じような光景が広がった。

 濃密地には自我のある上位と中位も現れた。


(というか最上位が六体も居るのだけど?)


 精霊王補佐の大精霊と精霊王本人がね。

 全て雌型の最上位精霊でボヨンボヨンの。


『『主様、お久しゅう御座います』』

『う、うん。お久しぶり。元気だった?』

『『はっ!』』


 背後に上位と中位も並んでいて私達の発した神素に酔いしれていた。ただ、この一帯だけ完全な聖域になってしまっている件について。

 まだ宮殿から出て直ぐの街中の広場だよ?

 ここだけが教会内の空間と大差ないの。



 ◇ ◇ ◇



 何はともあれ、その後の私達は精霊王達から事情を聞いた。そして精霊王達が帰ったあとに怒りがこみ上げてきた結依ユイ実依マイが大空に向かって叫んだ。


『あり得ない! 何なのそれぇ!?』

『ドロップ品は仕方ないけど、人族が作った不要魔道具を完全処分する事も無いまま、粗大ゴミとして捨てるって、資源の無駄じゃない!』

『しかも! 貴族が金に物を言わせて作らせて蓄えては捨てを繰り返すってバカじゃないの』

『この世界の人族、滅びても仕方なくない?』

『そのうえ中層資源が枯渇したから、低層に進軍って。お前等の捨てた魔道ゴミを再利用すればいいだけでしょ!? それで勇者召喚とか』

『『バカの所業なんじゃないの!?』』


 私も同じ事を思ったけど、二人が代弁してくれたお陰で一人だけ冷静で居られたよ。

 その間の若結モユ達の精霊は相変わらずだったけど。放出方法を教えてなかったね。


『お、おっぱいに吸い付かないでぇ!』

『お尻はダメなのぉ。前もダメだって』

『もう、どうとでもなれぇ! わふぅ』


 今は溢れ出る神力に群がっているだけね。

 若結モユは上半身に纏わり付かれた。

 風結フユは下半身に纏わり付かれた。

 知結チユは全身に纏わり付かれた。

 知結チユだけは土偶かと思えた。

 片や怒りに溢れ、片や困惑を示す。

 冷静な私から見たら混沌と思えてしまった。

 とはいえ聞いてしまった以上は、


『父さんが監視していてその状況になったと』

『きっかけが分からないと、対処のしようが』

『無いね。いつ頃からその状態になったのか』


 世界への干渉が必要に思えてしまった。

 干渉するとしても世界だけ。国とか王侯貴族とか民とか、そんな些事はどうでもいいの。

 住まう大地が崩壊間近なのに、自分勝手に資源を浪費させていく愚物共しかいないからね。


『やっぱり神界に上がるしかないね?』

『ここからだと俯瞰で見られないしね』

『民の生活自体は平穏そのものだけど』


 実依マイの言う通り、民達は平和を享受しているだけだね。資源が足りないとか浪費しまくれと動くのは、王侯貴族だけみたいだ。


『いつの世も上位者達の』

『我欲が世界を滅ぼすと』

『割を食うのは精霊と民』


 一先ずの私達は周囲に人払いの結界を張り、


『積層結界と時間加速結界をどーん!』

『今の容姿で私達の憑依体をどーん!』

『おっぱいが育ったけどこれはこれで』


 当初の予定通り、異世界人ではなく神体に似た憑依体を結依ユイに創ってもらった。


『見た目がエロフになったけど仕方ないよね』

『まぁ、うん。本当はハイエロフだけどね?』

『違いに気づけるのは亜人達だけでしょ?』

『『違いない』』


 結依ユイがあえて言った種族名には誰もがツッコミを入れなかった。これがスレンダーならエルフでも通るけど凸凹だらけだから。

 個々の憑依体に宿り直して裸で立ち上がる。

 立ち上がってピョンピョンと跳びはねる。

 何度か屈伸したり空手の型を流したり。


「動作は問題ないね?」

「胸が少し重いけどね。Eになったから」

結依ユイの願望が乗った感じ?」

「多分? 直前で盛大に揉んだからね」

「ああ、あれが見本となったと」

「とりあえず、私が下着と装備を創るね」

「「ありがとう、実依マイ」」


 精霊達に群がられる者達の前で行った。


『『『・・・』』』


 これは『私達は無いの?』っていう沈黙だ。

 言いたい事は分かるけど今は精霊が邪魔で三人の神体が見えないから創り出せないだけね。


「こういう時、全属性で良かったと思えるよ」

「分かる。使えない者達が居る中では特にね」


 私と結依ユイは仕方なく属性変換した神力を大量放出した。私が似通った雷属性を。

 結依ユイが氷属性を。

 装備を創っていた実依マイも鉱属性に変換した神力を大量放出していた。

 私達の大量放出後に三人へと群がっていた下位精霊達は一目散に離れた。現金な事で。


「あらら、神装がボロボロだね」

「神装ごといただいていたのね」

「綺麗な肌が丸見えになってる」

『『『助かったぁ〜!』』』


 若結モユは上半身が丸見えだった。

 風結フユは下半身が以下略。

 知結チユは素っ裸だった。


(いくら飢えているからって、主の神装まで食べるってどうなのだろう?)


 ともあれ、結依ユイは三人の神体を元にDカップを持つハイエロフを用意した。

 三人の反応だけは大変面白かったけど。


『私ってこんな見た目だったのぉ!』

『眩しすぎて目が痛い、目が痛いよぉ』

『茶金髪も結構似合うのね、私』

『と、というか私の顔が変化してる?』

『私が若結モユの顔になってる』

「おいおい。今頃、気づいたの?」

「まぁ仕方ないよ。一応、神体の母親達を見たら同じ反応を示す事になるから覚悟しててね」


 憑依体では別顔だが芽依メイ達も私や結依ユイ達と同じ顔立ちになるからね。

 理解不能のきょとんをいただいたけど。


『『『ふぇ?』』』

「それよりも神装を消して身体に重なってね」

「あとは勝手に宿るから」

『『『わ、分かった』』』


 実依マイは憑依体に合った下着と装備を拵えていく。もちろん、裸のままね。

 そうして全員分の装備が出来ると実依マイは自身を優先して下着を着けていく。


実依マイは紺のホットパンツ、白いTシャツ、黒いブーツと緑のローブでいくのね」

「職業的には魔導士だからね」


 実依マイの装備は剣を収めた長杖だ。

 魔法使いみたいな緑の帽子も被っている。

 私と結依ユイ実依マイから下着を受け取って身につけて装備を着けていく。


「姉さんは緑の袴と桃色の上質な着物だね」

「髪型はポニーテールに変えた方がいいかな? このままだと動きづらいし、汚しそうだから」

「それならリボンも要る?」

「うん、お願い」


 私の装備は刀と脇差しである。

 見た目は白金髪の女剣豪って感じだね。

 私の職業は魔剣士となるけれど。

 結依ユイ実依マイと同じ格好でローブ無しだ。色は黒のホットパンツに黒Tシャツ。黒のブーツと黒い籠手である。


「動きやすいけど、胸当ては欲しいかも」

「ああ、革鎧も要る?」

「うん。ブラがあっても揺れるからね?」


 黒一色なのは髪色が関係するからだろう。

 一応、結依ユイも魔導士だけど接近戦を得意とするからこの装備となったようだ。

 結依ユイもセミロングを纏めて私と同じリボンを着けて左サイドテールにしていた。

 残りの三人は要望すら無かったので、街娘風の長袖と長いスカート姿になった。どうも周囲に居る平民女子の服装を真似たようである。


「「私達だけこれ?」」

「ぶーぶー! 同じ服が良かったぁ!」


 ぶー垂れているけど、結構似合うよ?

 女子高生から看板娘って感じに化けたし。

 髪色と相反する色合いの服装だし。

 若結モユは白ブラウスと紺スカート。

 風結フユは白ブラウスと茶スカート。

 知結チユは白ブラウスと黒スカート。

 それもベストとフレアスカートで統一しているから同じ顔立ちから姉妹にも見えるだろう。

 すると実依マイは片付けを行いつつ、


「贅沢言わないでよ。昔の姉さん達はこの格好で活動していたから似せる事が出来たんだよ」


 若結モユ達と私達の違いを示した。


「ああ、若結モユ達の得意不得意を」

「示さない事には分からないかもね?」


 私と結依ユイが顔を見合わせながら苦笑すると若結モユ達は思い出したように頷いた。


「ああ、インドア派だもんね。私」

「私は結依ユイの格好に憧れるけど」

「得意は寝る事なので、これでいいでーす」

「インドアが二人、アウトドアが一人っと」

「「アウトドアというか陸上バカだよね?」」

「陸上バカとか言わないで!?」


 だって風結フユは走る事が大好きじゃない。ハムスターのようにトテトテって。

 走って発電しているわけではないけど。



 ◇ ◇ ◇



 一通りの準備を終えた私達は〈隠形〉スキルを有効化しつつ全結界を解除した。

 そして目的地へ向かう街道へ歩みを進める。

 歩みを進める順番は以下ね。

 前衛は結依ユイ若結モユ

 中衛は私と風結フユ

 後衛は実依マイ知結チユだ。

 一応、三人にも外套を手渡してはいる。

 素の状態だと街娘でしかないから。

 早速ゲーマーが反応したけれど。


「最初は段ボールが必要かと思ったけど」

「段ボールって。どこのスネークよ、それ?」

結依ユイは話が通じて助かるよ」

「一応、同類でしょうが、私は!」

「というか人族だけなのね。獣人見たかった」

「まぁそういう国家だからね」


 風結フユ達は呆然と歩く。


「人がするすると避けていく〜」

「衛兵にも気づかれないのね」


 私と実依マイは苦笑しつつ答えた。


「〈隠形〉スキルだからね〜」

「しかもカンストしているね」


 というより私達のスキルは全てカンスト状態だ。新しく取得してもポチポチと数値化不可なスキルポイントを割り当てるだけでいいのだ。

 若結モユがチートと発しかけたのはそれがあるかもしれないが。

 すると私達の目の前に、


「冒険者ギルドはっけーん!」


 若結モユが喜ぶ建物があった。

 だが、私達の目的地はここではないので結依ユイ若結モユの首根っこを掴んで先を急いだ。


「あー、ないない。ここでは登録しないし、出来ないから行くよ、若結モユキチ」

「えーっ!?」


 その様子を見ていた風結フユも疑問気に私に問いかけてきた。


「登録はしないの? 身分証にもなるよね?」

「身分証にはなるけど登録時に拒否されるだけだと思うよ」


 すると今度は知結チユが問うたので、


「そうなの?」

「私達の容姿は人族ではなくて亜人だからね。登録するなら亜人の国の方がいいんだよ」


 実依マイが代わりに答えてくれた。

 それを聞いた若結モユは自身の姿を思い出し、納得したように頷いていた。


「ああ、だから!」


 私はそのうえで危険性を三人に伝えた。


「人族だけの国家だもの。ここは亜人の迫害もあるみたいだから早々に出て行く方がいいね」


 結依ユイ若結モユの首根っこを放して、真剣な表情で事情を語りだした。


「精霊王の言葉にもあったしね。亜人を捕獲して性奴隷にする輩が多いって。隷属魔法を願われた以上は、応じるしかないみたいだけど」

「その点では主としてどう思う?」

「仕方ないと諦める。私達を奴隷化しようとした点については論外だけど」

結依ユイのご立腹は継続中と」

「何なら実依マイのお尻で発散しようか? 私の怒りは相当あるけど?」

「け、けっこうです!」

「徹底的に揉み上げてあげようと思ったのに」

「や、やめて〜!? それはやめて、ね?」


 まぁ最後は締まらない話になったけど。

 こうして私達は大騒ぎしながらも、湖に架かる橋を通り抜け、対岸へと到着した。




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