第6話 母達は大激怒する。
〈七月二十二日・午前十一時〉
私が知った全てを
あの子達が勇者召喚に巻き込まれた事を。
そうしたら血相を変えて飛び出そうとした。
「そんな事になっていたなんて!」
「
案の定の反応よね。娘愛が強いというか?
この場合は姉妹愛になるかもしれないが。
「あの子達は封印中よ!? 素の状態では危険過ぎるわ。私が行って解除してあげないと!」
「慌てる気持ちは分かるけど
「あっ。姉さん達が居た事を忘れてた」
「ホント、お腹から産んだ愛娘の事になると冷静ではいられないのね。
「私は母さんとは違うもの」
「わ、私だって産んでいるわよ。お腹から」
「それは兄さんだけでしょ?」
「うっ」
一応、あと二人居るけど言えなかった。
十六才の年齢に即した神体に育つまでは神器の中で育て、神体と精神を
それを
「ごめん、言い過ぎた」
バツの悪い顔で俯いた。
「ほ、本当の事だしね、うん」
口喧嘩の後、重い沈黙が社務所内を包んだ。
そう、私が最初に産んだのは男女の双子だ。
この子達が兄さんと呼ぶ長男が弟だ。
表向きには長男が一人とだけ教えている。
流石に戸籍を拾われたら長女と次女が居る事がバレるから
隠しているのは長女が私の分身だからだ。
大事な子だから隠して寝かせていたのだ。
それが何の因果か分裂してしまったけれど。
国を無かった事にしてあげたら孫と共に消えたけど。戦時中は顔を出してくれたけどね。
大変可愛らしい幼女姿で嫌そうな顔をして。
だから
娘が居なくなった事が、どれだけ辛いかを。
元はといえば私の失言が招いた喧嘩だけど。
すると
「姉さん達、無事かな?」
先に心配すべきは姉達だと気づいたらしい。
姉達が無事なら娘達も無事だものね。
私は重い空気を払拭するごとく、あっけらかんと教えてあげた。
「無事、なんじゃない。封印解除すれば付け加えるだけ付け加えたスキルで生き延びるわよ」
「は? そ、それって?」
心配顔からきょとん顔にクラスチェンジ!
ではなくて、単に寝耳に水の表情ね。
「パッシブとアクティブ併せて三十二種のスキル群、そこに三十二種を新たに追加したのよ」
「ろ、六十四種?」
「ええ。
「はぁ?」
「寝てる間に口にドバドバと注いであげたわ」
「な、何してるのよぉ!?」
私は面白い結果が得られたので、舌を少し出してネタばらしした。
「というのは冗談で」
「じょ、冗談?」
「いつも食べていた焼き芋で追加していったのよ。誰もがうまうまと食べるから、ついね?」
「焼き芋で!?」
「任意のスキルを生やす〈スキル芋〉よ。採取した者の希望通りのスキルが生まれて、焼いたら形と成すの。それを食したら、食べた者へとスキルが定着するのよ、カンスト状態でね?」
「そ、そんな芋、いつの間に?」
「暇だから作った!」
「おぅ」
そんな絶望めいた顔しなくても。
本当に暇だから作っただけよ?
それからはずっとサツマイモ畑に入り浸っていたけど。暇だからそれしかする事が無いし。
私はゴソゴソと側に置いていたデイパックを漁り、桃色の芋を取り出し数個だけ手渡した。
「種芋をあげるから、好きに使っていいわよ。といってもこの世界の住人には効かないけど」
「き、効かないって?」
「主に魔法を使う異世界人。管理外の世界に居る住人だけね。もちろん、願わずに採取すれば甘くて蕩ける風味を持つだけの芋になるけど」
「ははははは。
「
「上位種ね。そんな事が出来たかしら?」
すると
神力でなら魔法行使は可能だものね。
「あら? 〈権能操作〉スキルの上限値は?」
「撤廃しちゃった!」
「そんな軽口で言わなくても」
「将来に渡って必要だから色々統合したのよ」
「将来? ああ、数年後の件ね。新世界の?」
「そこで使うスキルだから早い内に慣れて欲しかったのよ。練習台では出来ない事もあるし」
「そういう事ね」
母親からのプレゼントなんだから嬉しそうにして欲しいわよね。
ともあれ、社務所での話し合いを終えた私と
「一先ずは様子見に行ってみるわ。あちらの片付けも必要だろうし」
「そうね。あの子達も早々に上がってそうな気がするけど」
「それで父さんは?」
「連絡してから大絶叫のまま反応が無いわね」
そして奥にある扉を開いて中に入る。
そこは見渡す限りの田畑が拡がっていた。
別名〈アスティの箱庭〉私の箱庭ともいう。
この空間内は各種電波が届き、携帯であれテレビであれ、何処に居ても受信が可能なのだ。
位置情報だけは神社から動かないけれど。
「どうせ気絶でもしてるんでしょ?」
「父さんならあり得るわね」
そう、家屋の中に居るであろう
私と
「ただいま戻ったわよ。どうしたのよ?」
「・・・」
「ただいま、父さん?」
「・・・」
返事がない、まるで屍のようだ。
いや、燃え尽きてるだけだと思う。
ブツブツと呟いているから。
「まさかそんな、あれはそこまで、どうするべきか、いったいなにが、どうしてあんなこと」
「これは重傷?」
「重傷かもね?」
一体何があったのやら?
私は
「いつ見ても、大きいお尻よね、これ」
「分かるけど、お尻という表現は止めてね」
「でもさ? 中心に大きくてなだらかな双子山の元火山と緩やかな二つの小山。山間に流れる大運河と手前の大滝壺。背中を象徴するような形状の森林と周囲を満たす母なる海。滝壺の」
「そういうのは無しでお願い」
「はーい。母さん、ガチ切れじゃない」
「怒ってないわよ。説明される事が嫌なの」
「思い出の品だもんね?」
「ノーコメントで」
監視するだけなら見るだけでいいが内部の詳細を知るには触れるしかない。
触れてみた結果、恐るべき状況だった。
「中層資源の枯渇、魔力密度の低下、神素残量の減少、下位精霊の減少、下位精霊界の崩壊」
それだけでなく時間のズレまで生じていた。
いつもなら私の世界と同期しているのに数時間遅れているのよね。遅延中にも似た状況ね。
「はぁ? それって崩壊前って事じゃ?」
「ええ、監視だけでは足りなかったみたいね。世界干渉が必要なレベルで悪化しているわ」
「げ、原因は?」
「原因は大量に拵えた魔具が分解される事なく残っている事。大量生産と大量消費の時代に突入しているみたい。浪費に継ぐ浪費の時代ね」
「あー、あの時代かぁ。ゴミが再生されず資源を使い潰す。それで文明は?」
「中世ヨーロッパのまま」
「おぅ」
少しでも文明が民主主義に傾いていれば打開は出来ただろうが封建主義が残ったままなら打開は難しいもの。買って蓄えて見せびらかす。
骨董品だろうが、残しまくって魔力資源が無くなるまで使い潰す。そんな状況下では数千年分もの神素の蓄えなども一瞬だろう。
「それで資源不足に陥って低層まで侵略しないといけなくなったみたい。魔力密度の低下は神素残量の減少から始まり下位精霊が減少して下位精霊界が崩壊したから起きているみたい。中位と上位はギリギリという感じだけど・・・」
「補充は出来ないの?」
「直接行って、放出するしかないわね」
「ということは緊急機能が働いたとか?」
「その可能性は・・・あるわ。直前まで居た
「ああ、管理者を呼べってなったのね?」
「そこに侵略のための勇者召喚が重なって」
「一緒に連れていかれたと・・・」
「幸いなのは、あの子達が封印解除している事よね。部分的に精霊達が活性化しているわ」
「ああ、理由無き封印解除ならお尻ペンペンだったけど、これは仕方ないかぁ」
現状は
私の自由きままな性格が主に出ているわね。
その際に私はある事に気づく。
「あっ」
「母さん、どうしたの?」
「
「な、何の事?」
それは緊急時のみに対応する娘達の事だ。
極秘裏に用意して、放っていたはずのね。
戸籍上では
この子達が居るなら
「個々の状態は・・・完全封印。対が現れると目覚める指定ってバカなの?」
途轍もない苛立ちが浮かんできた私だった。
もうね、
「か、母さん? どうしたの?」
「幸い
そう、呟きつつ
「はぁ? 何を言って?」
「
「ふぇ?」
「このまま向かって目覚めさせてきて!!」
「はい? いや、だから何の事なのよ!?」
これは説明すべきよね。
ということで、
その分、怒られたけど。
「そういう事は最初に言って!」
「「すみませんでした!」」
親としてこの時ばかりは情けないと思った。
ちなみに、本当に知らせないといけない事実はまだ隠したままである。
実は
一応、
これも神核の保守時に記憶統合する必要があるのだけど、揃わないから困った事になっていた。既に居る七人なら問題はないが次女と繋がりのある七人が居ないと話にならないのよね。
(
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