終章3 タマユキよさらば


「ア~チョ~ニャ!」


 ユキはファイティングポーズをとりながら軽やかにステップを踏み、しきりに鼻先を手でこすった。

 タマがあきれた様子でつっこんだ。


「ユキにゃん、ひょっとしてそれ、実家でいっしょに観たカンフー映画?」


 リョートラッテのまわりにつららが何本も現れ、ユキに向かって放たれた。

 ユキはその場で限界までのけぞって次々につららをかわした。なぜかスローモーションになっていた。


 またタマがあきれて言った。


「ユキにゃん、それはあのSF映画だよね…。」


「さすがね、ユキちゃん。でもこれはどうかしら?」


 格子状の氷の糸が放たれた。ユキが間一髪でジャンプして天井にはりついてかわすと、背後の家具がサイコロステーキ先輩のようにバラバラになった。


「それはあのゾンビ系映画ね…」


「あニャ! 本気で殺す気かニャ!」


「あったり前でしょ。覚悟はできてる? 白猫さん!」


 言い終わらない内に、天井からリョートラッテに向けてユキが爪をたてて飛びかかった。


「スキありニャー!」


「あまいわ!」


 女王は宙に氷の壁を作り出して防御した。だが、ユキは頭突きで壁を粉々に砕いてしまった。


(バリーン!!)


「うそ!?」


 氷の破片がキラキラと舞う中を、そのままユキは頭突きでリョートラッテの腹に激突した。


「かはっ。」


(ドッシーン!!)


 くるくるっとユキは床に着地した。相手は衝撃でゴロゴロと絨毯の上を転がり、壁にぶち当たって止まった。


「にゃはっ! 勝利ニャ! You win!」


 ユキがポーズを決めて余韻に浸っていたが、タマが青ざめて言った。


「ユキにゃん、助かったけどやりすぎかも…。うごかないよ、女王さん。結婚式の日に重症って、死刑になるかも。」


「正当防衛ニャ!」


「ううう…。」


 銀髪をふり乱しながら、花嫁はのっそりと起きあがり、瞳孔の開いた瞳が二人をにらんだ。


「あわわわ、起きたよ。」


「あの和製ホラー映画みたいニャ。」


「もう頭にきた!! 王宮ごと氷漬けにしてやる!! レ●ゴー! ●リ●ー!」


『あわわわわ…。あの大ヒットアニメ映画…。』


 強烈な寒波が襲いかかってきて、凍った家具が紙のように舞い、タマとユキは抱き合ってガタガタと震えた。


 思わず目をつぶった二人だったが、しばらくしても何も起こらなかった。こわごわと目を開けると、素に戻ってスタスタとドアの方に向かう女王の姿が見えた。


「なーんてね、ウソ。もう戻るわ。」


「え?」


 リョートラッテはふり返り、少し悲しげな顔をした。


「こうでもしないとアンタたち、進展しないでしょ。全く、このアタシに何をさせるのよ。あとはごゆっくり!」


(バタン!)


 ドアを思いきり閉めると、遠ざかっていく足音が聞こえた。



「あニャ…。実はいい人ニャ?」


「途中までは本気じゃなかった?」


「でも、少し泣いてたかもニャ…。」


 抱き合っていることに改めて気づいて、慌てて二人は離れた。


「も、もう戻ろうか、ユキにゃん。料理がなくなっちゃうし。」


「でも…。タマちゃん、リョートラッテさんが言ってたことニャ…」


「うん、そうだね…。」


「タマちゃんは…どうしたいニャ?」


「本官は…ユキにゃんとずっといっしょにいたい! いっしょに暮らしたい!」


「ボクもニャ! タマちゃん、大好きニャ!」


「本官も…私も! ユキにゃん、大好き!」


 二人は真面目な顔になって見つめ合い、徐々に近づいて…


(バーン!)


 ドアが勢いよく開き、キーマ王が入ってきた。


「タマ殿、ユキ殿! ここにいたのか! 早く来てくれ! 警察の出番だ!」


 慌ててまた離れたタマとユキは急いで立ち上がった。


「キーマさん! どうしたの?」


「猫目石と虎目石がなくなった! 盗まれたんだ!」


「ええーッ!?」




 街の大門に、沢山の人が見送りに来ていた。ナンを盗んでいたあの少年が前に進み出た。


「おまわりさん、ありがとう。必ず戻ってきてね。」


「もちろん! まかせといて!」


「留守の間、交番をたのむニャ。」


「了解!」


 カッキーノとハーズッシの後ろに並んだ制服の警官隊が一斉に敬礼をした。


 ヤブラヒムがユキに包みを渡した。


「いろいろ薬を入れておいたよ。気をつけて。」


「ありがとうニャ!」


 キーマ王がタマとユキに近づいた。


「危険な任務ですまぬが…。まさかあの大怪盗キジ・サッバートラフが石を盗むとは。」


「奴は大陸中の盗賊が集まる犯罪都市ダマスダマスに向かったみたい。あとを追って、必ず石を取り戻すね。」


「じゃ、行ってきまーすニャ!」




 タマとユキは手をつないで街道を歩いていた。


「またタマちゃんと旅ができるなんて嬉しいニャ~。村を出た時を思い出すニャ。」


「ホントだね。ユキにゃんとなら、楽勝だよ!」


「ふたりきりの旅ニャ。いや~んニャ。」


 赤くなったユキに、後ろから誰かがツッコミをいれた。


「おいおい、こんな面白そうな話、俺を置いていくなよ。」


 すっかり盗賊時代の姿に戻った青髪の少女が腕組みをして立っていた。


「ベーリンダ! 南の女王がなにしてるの!?」


「めんどくさいコトはハムナンに任せてきた! お前らだけじゃ心配だからな。ついていくぜ。」


「相変わらず強引ニャ…。」


「俺だけじゃないみたいだぜ。」


 ベーリンダが指をさしたほうをタマとユキが見ると、三人の人物が追いかけてくるのが見えた。


「退屈な結婚生活なんてゴメンだっての。アタシも行く!」


「私も微力ながら助太刀するぞ。」


「隠居生活は退屈でのう。」


タマはあきれた様子で立ち尽くした。


「リョートラッテさん、ウマイカイさん、カンフェクシャネリさん…。王様が国をあけていいの?」


「アタシがいなきゃダメでしょ? タマさんは。」


「まだ波乗りを貴殿たちに教えておらぬでな。」


「細かいことは気にするな! さあ、行くぞい、皆の衆!」


「せっかく二人きりだと思ったのにニャ~。」


「ま、いいか! 行こう! みんな!」


 四人の王さまと二人の警察官は、どこまでも続く街道を共に歩んでいった。





(おしまい)

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【完結】(百合要素あり)新人警察官・香箱タマ、ただ今異世界を白猫少女ユキにゃんと警ら中!ー本官は悪いテイコクさんを逮捕しにいくのであります!ー みみにゃん出版社 @miminyan_publisher

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