第17話 てづくり交番始動!


「ほんっとうに、ごめんなさいっ!! 」


「ハ、ハ、ハクション!」


 タマたちの借りた建物の一室。


 タオルにくるまったタマに向かって、少女は輝く銀髪を下げて謝りまくっていた。


「おわびのしるしに、かき氷一年分をタダにするの…。」


 タマが鼻をすすりながら言った。


「今はいらないかも…。」


 ベーリンダが銀髪の少女に冷たく低い声で言い放った。


「リョートラッテ、てめえ、タマが許すっつうから今回だけは勘弁してやるけどな。」


 リョートラッテと呼ばれた少女は、白い瞳でベーリンダをにらんだ。


「うざっ! ベーリンダには謝ってないの! ワタシはタマさんに謝ってるの!」


 にらみ合う二人をタマは仲裁した。


「もう大丈夫だからいいよ。死ぬかと思ったけど。」


 リョートラッテは小さくつぶやいた。


「普通は死ぬっての…。」


「え? なんか言った?」


「な、なんでもないの!」



 タマが凍りついた時には全員がパニック状態に陥った。タマを救ったのは、騒ぎを聞いて駆けつけた反対隣の店主だった。


 その店主は精巧にできた大きな木の仮面を顔につけていた。


 華麗な歌と踊りを披露しながら、仮面の店主はヤシの実に開けた穴から湯気のたつ液体を凍ったタマにふりかけた。


 あ~ら不思議、凍りついたタマはみるみる溶けてもとに戻ったのだった。



 ユキがその仮面の人物と共に部屋に入って来た。


「タマちゃん! ウマイカイさんがまた来てくれたよ!」


 店主ウマイカイは、ウミガメやイルカがプリントされた半袖の開襟シャツを着ており、首には色とりどりの花でできた首かざりをかけていた。


 彼は、ヤシの実を半分に割って作ったお椀を筋骨隆々の腕で差し出した。


「我が祖国秘伝のスープを作ってきたぞ! さあ飲むがいい、異国の方よ。体が温まるぞ。」


「ありがとう! いただきます!」


 タマはお椀をいっきに飲み干した。


「…か、辛っ!!!!」


 タマは走って行って水桶にザブンと頭をつっこんだ。


「ぬぬぬ、シマトウガラシを入れすぎたか。許せ、異国の方よ。」


 ウマイカイは野太い声で謝った。

 ユキが彼に聞いた。


「ウマイカイさん、あの氷を溶かした液体は魔法の薬だったのニャ?」


「いや、ただの熱湯だ。」


「…。じゃ、あの歌と踊りはニャ?」


「あれか。あれは私の趣味だ。」

 

 ユキは呆れてウマイカイを見つめたが、仮面のせいで表情がサッパリ読めなかった。


 リョートラッテがアクビをしながら言った。


「アタシの凍結術って、ただの熱湯で破れるんだ…。知らなかった…。なんだか疲れた。もう店に戻って寝る。」


 立ち上がった彼女の細腕をベーリンダがギュッとつかんだ。


「いたいっての! なに? まだ闘るっていうなら相手になるけど。」


「ちがう! てめえの他にウマイカイまで、なんで帝国首都にいやがるんだ!?」


「ふん。それはこっちのセリフよ。なんでアンタこそここにいるの? きたない手を離して。帰る。」


「では、私も失礼するぞ。タマ殿、お大事にな。」


 銀髪の少女と仮面の大男は部屋から出て行った。ユキが疑問をぶつけた。


「ねえ、あの二人、ベーリンダの知り合いニャ?」


 彼女は歯切れが悪かった。


「あ、ああ。まあな…。とにかく、もうあまり奴らとは関わらないようにしようぜ。あれ? ところでタマは?」


「あニャー!! 水桶に頭をつっこんで動かなくなってるニャ!!」




 翌日。


 二人の帝国兵が街を巡回していた。暑くてダラダラと歩いていたが、ふと何かに目をとめた。


「おい! みろよ、カッキーノ! すげえ行列だぞ。ありゃなんだ?」


「行ってみようぜ! ハーズッシ!」


 人々はとある店に長蛇の列を作っていた。そのカウンターには妙な紺色の服を来た者と、同じ服を着た白猫がいて忙しく接客をしていた。


 カッキーノとハーズッシは客をかき分けて聞いた。


「店主はおまえか? 営業許可はとってるのか? いったいこりゃなんだ?」


「もちろんとってます!(後でリョートラッテに聞こう。)」


「まあまあニャ、兵隊さんもおひとつどうぞニャ!」


 白猫が兵士ハーズッシにかき氷のカップを差し出した。


「…つめたっ。甘い! こりゃウマイ!」


 カッキーノはカウンターに置いてあるチラシに気づいた。


「なになに…『コウバン』で事件の相談受付中? 『ケイサツカン』も募集中? 時給は高給? マジで? 俺、応募しようかな。」


「隣の『コウバン』ってなんだ? 行ってみようぜ。」


 隣の建物には見たことがない文字の看板が掲げてあった。

(漢字で『交番』と書いてあった。)


 中の机には青い髪の少女がおり、紺色の珍しい服と帽子を身につけていた。


 机の前には椅子があり、年配の男性がしきりに何かを訴えていた。


「なるほど、昨晩、家に泥棒が入ったんだな? 街の兵士は調べようともしねえのか。わかった、この紙に『ヒガイトドケ』を書いてくれ。盗られたものをなるべく詳しく…。おい、なに見てやがるんだ?」


「い、いえ。べつに。」


 カッキーノとハーズッシは少女に見惚れていたが、身の危険を感じて退散した。


「なあどうする? 上に報告すっか?」


「ほっとこうぜ。報告書を書くのめんどくせえし。」




 銀髪の少女は満面の笑みでタマとユキに銀貨を手渡した。


「ありがとう! はい、今日のバイト代。こんなに儲かったのは初めて! きっとワタシじゃ美しすぎてお客がひいてたのネ。 タマさん、ユキちゃん、明日もよろしくね。」


(たしかにひくよね…。)


「リョートラッテさん、こちらこそありがとう。」


 二人が交番に戻るとベーリンダが出迎えた。


「タマ、ユキ、バイトおつかれ!」


「銀貨もらったニャ!」


「警察官の制服、似合ってるよ。今日はどうだった?」


 椅子に座ったベーリンダは窮屈そうにして、スカートから出ている長い足を組み替えた。


「これ、どうしても着なきゃダメか? まあいいけどさ。またいくつかヒガイトドケを受理したぞ。」


「やっぱり同じ窃盗団?」


「たぶんな。手口が同じだ。夕飯のあと、ちょっとでかけてくるぜ。」


「どこにいくのニャ?」


「街の顔役のとこ。まかせとけ、蛇の道は蛇、さ。」



 夕ごはんの後、ベーリンダは出かけていった。タマが屋上で街の景色をながめていると、ユキが隣に来た。


「タマちゃん、ここにいたのニャ。」


「ユキにゃん、いろいろありがとうね。」


「ううん、ここに来てからはベーリンダに頼りっぱなしニャ…。ボクはなにもできていないニャ…」


「そんなことないよ。交番を作ろうと思ったのはユキにゃんのおかげだから。」


「…ボクの? なんでニャ?」


 急に夜風が吹いて、タマは帽子を押さえながら言った。


「本官は…どうしても許せない奴がいて…そいつを捕まえたくて警察官になったんだけど、それは間違いだったのかな? って…、ユキにゃんがヤブラヒムさんを許したのを見て思ったんだ…。」


「そうだったのニャ…。」


「警察官って、悪い奴を捕まえて懲らしめるのが一番の使命だって思ってた。だからここに来たんだけど…。その前にやることがあるような気がして。助けを必要としている市民により添うのが本当の警察官なのかなって…。」


「…タマちゃん…。」


「ユキにゃんまで苦労させてゴメンね。」


「ううん、ボクも、タマちゃんの力になるように頑張るニャ!」


「ありがとう、ユキにゃん。」


 二人は微笑みあうと、かたくお互いの手をとりあった。



「おい、起きろ、タマ!」


「う~ん、眠い…。…あれ…? ベーリンダ!?」


 真夜中だった。タマはねぼけていたが、起こされた相手が彼女とわかるとはね起きてマクラを盾にした。


「ど、どうしたの!? まさか…」


「シーッ! 安心しろよ。そんなんじゃねえから。早く制服を着て用意しな。」


「用意って?」


 ベーリンダは既に警官の制服を着て帽子をかぶり、あの特異なナイフを腰にぶら下げていた。


「決まってんだろ? 窃盗団のアジトがわかったんだ。捕まえに行こうぜ!」


「二人だけで? ユキにゃんは?」


「怖気づいたのか? タマはケイサツカンなんだろ? ユキは置いていく。やばい連中だからな。お子様は留守番だ。」


「…わかった!」


 タマは急いで制服に着替えて警棒と手錠を身につけると、犯人たちの拠点をめざし、ベーリンダと共に夜の闇に消えていった。

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