第3話 運命の出会い?
「いたかニャ?」
「だめニャ! どこにもいないニャ!」
夕暮れの中、集まって来た村の猫たちは焦っていた。
もうすぐ日が落ちる。
暗闇でも目が見える猫たちにとって、
それはたいした問題ではなかったがまた別の問題があった。
質素な布の服を着たひときわ大きな茶トラ模様の猫が言った。
「まずいな、今の季節、奴らは繁殖期で気が立っている。早く見つけないと…。」
「えっ!? まさかジャン君だけでドクダミ草を採りにマウラート山へニャ!?」
「今は生えてない時期なのにニャ…。」
「これだけ村中を探していないという事はそれしか考えられん。おそらく妹のために…。」
すぐに武器を用意して山狩りを、いやその前に帝国出張所に許可申請を…。
しびれを切らしたのは、とびぬけて美しい白い若い猫だった。
「そんなのまにあわないニャ! ボクが行って探してくるニャ!」
「待て! ユキ!」
制止を聞かず、ユキと呼ばれた猫は風のように山道を走りぬけた。
時折立ち止まり耳を立てて音を聞き、鼻でにおいをかぎヒゲとまゆ毛で気配を感じとった。
「こっちだニャ! でも変なにおいも混じっているニャ?」
(人間のにおい? まさか帝国の奴らニャ?)
ユキが自分の能力を信じてたどり着いた先は、山中の深い森の中、奇跡的に少しだけ開けた草地だった。
(誰かいるニャ!)
ユキは慎重に慎重に気配を消し、近づいていった。
倒れた丸太に身を潜め、そっと首だけを出して様子を伺うと…
「??なんニャあいつ??」
ユキは頭の上にはてなマークを20個以上出した。
草地には、紺色の妙な上下の服に、同じく紺色の丸い変な帽子を被った小柄な人間が背を向けて座っていた。
(マウラート山中でこの季節、焚き火もせずにあの軽装…自殺行為ニャ。)
よほどの命知らずか、無知な者か、あるいは危ない奴か…、いずれにしても用心すべきだとユキは思った。
幼い頃から繰り返し繰り返し言われてきたことだ。
(『人間は絶対に信用するな』…か、ニャ。)
よく見ると、その妙な人間は
(ねんねんころーりーよー、おころーりーよー)
というわけのわからない歌を歌っているのが聞こえてきた。
(こりゃ本当に危ないやつかもニャ。あニャ? もしかしてニャ!?)
さらにユキがよく見ると、その人物の向こうにチラリと黒い猫のしっぽが見えた。
咄嗟に、ユキはそばに落ちていた木の棒を拾うと前に飛び出した。
「コラーッニャ!! この誘拐犯めニャ! そのコを今すぐ離すニャ!」
血相を変えて木の棒を構えているユキの方に、その人物はキョトンとした表情で振り向いた。
「え? ユーカイハン?誰? 誰が!? た、大変だ! はやく捕まえなきゃ!」
怪しい人間は眠っている黒い子猫を抱いたまま、オロオロし始めた。
「キミニャ! キミが誘拐犯ニャ!」
「へ? 本官?」
変な服の人間は不思議そうな顔をした後、
今度は急に笑い始めた。
「何がおかしいニャ!」
「失礼! 申し遅れました! 本官は、本日交番に配属になりました香箱珠(こうばこたま)巡査です!」
片手で子猫を抱きながらビシッと敬礼をしたタマと、棒を構えたままのユキはお互いしばらく見つめ合った。
別に電撃がビビッと走ることもなかった。
ユキは頭を抱えて嘆息した。
「あニャ~。やっぱり危ない奴だったかニャ。」
尚もタマと名乗った人間は意味不明な事を言い続けていた。
「あの、迷子の黒猫ちゃんを保護したんだけど、この辺りに交番はある? 駅かバス停はどの辺り? あ、あなたのスマホをかしてくれる? 本官のは壊れてしまって。無線もなぜか使えないし…」
ユキはタマからぐっすり眠っている子猫をひったくると、金色の目で睨みつけながら言った。
「だまるニャ! キミの言うことは全く意味不明ニャ!」
「それにしてもそのコスプレ、リアルね! 近くでイベント?」
タマはユキに近づいて耳にさわろうとした。
「き、気安くさわるニャ!」
「しっぽも本物みたいね。」
タマはユキのしっぽをつかもうとしたが、
スルスルと動いてかわされてしまった。
「あれあれ? おもしろい! どんな仕組みなのこれ?」
「もう相手してられないニャ。さよならニャ。」
ユキは立ち去ろうとしたが、
本当に危ない気配を感じて毛を逆立てた。
茂みの向こうの暗闇に、赤く光る対の目がひとつ、ふたつ…あとは数えきれなかった。
「不覚ニャ。キミに気を取られて気づかなかったニャ。」
「え? 何、何? なんなの?」
「キミ、タマだっけニャ? 何か武器は持ってるかニャ?」
「武器? あ、うん、一応…。」
ユキが見ると、タマは見たこともない変な道具を取り出した。
「何それニャ? それが武器ニャ?」
「そう、拳銃だよ。」
「ふうん。ま、なんでも良いから攻撃ニャ!」
「わ、わかったよ。」
タマは、光る目に向けて恐る恐る拳銃を構えると発砲した。
パン!
乾いた発砲音がして、目が一斉に閉じた。
「やったニャ! すごいニャ、キミ。」
「いや、あの、その…。」
次の瞬間、無数の目がまた光った。
「ゴメンね、外しちゃったみたい。てへっ。」
「それ全然かわいくないニャ! 全力で走るニャ!」
子猫を抱えたユキは目にも留まらぬ速さで逆方向に走り出した。
「待ってよ~。置いてかないで~。」
暗闇の中から、次々と巨大なネズミが飛び出してきた。
「ひえええ! 何を食べたらこんなにでかくなるの?」
「キミみたいなトロい人間ニャ。」
二人は並んで必死で走ったが、
タマのあまりの遅さにユキがキレた。
「タマ、子猫抱いててニャ!」
「えっ? どうするの!?」
ユキは子猫を抱くタマごとお姫様だっこして、また走り出した。
「こりゃ楽だね~。あなた小さいのに力もちだね!」
「あニャ、思ってたより重いニャ!」
「し、失礼なやつ!」
さすがのユキも疲れてきたのか速さが徐々に落ちてきた。
巨大ネズミに追いつかれると思った寸前、
飛来した矢が先頭のネズミの額に突き刺さった。
次々と大ネズミたちは矢に倒れていき、ついには蜘蛛の子を散らすように暗闇に逃げていった。
「村長、村のみんな! 助かったニャ!」
「ユキ! ジャン! ケガはないか?」
弓矢を持った茶トラ模様の大きい猫が近づいてきた。
「そちらの人間の方も大丈夫ですか?」
「は、はい。」
ユキから地面に降ろされたタマは辺りを見回した。
周りでは弓矢で武装したさまざまな毛色の猫たちが声をかけ合って周囲を警戒していた。
タマに抱かれた黒い子猫は目を覚ましていた。
「みんな、ごめんなさいニャ! どうしても薬草をとりたくてニャ…。道に迷って倒れていたら、このヘンな格好の人間のおねえちゃんが助けてくれたニャ。」
子猫の証言にタマは勢いづいた。
「誰が誘拐犯だって?」
ユキはすっとぼけて言った。
「そんな失礼なことを言ったのは誰ニャ!」
「すみません、そうとは知らずユキが失礼をしたようですね。まずは村に戻りましょう。ここは危険です。」
冷静な茶トラ猫の提案に、タマはおとなしく従うことにした。
「わかりました。あと、ひとつだけいいですか?」
「はい、なんでしょうか。」
「猫が服を着て歩いてしゃべってるー!!」
そう叫ぶと、タマはパッタリとその場に気絶してしまった。
ユキがつぶやいた。
「…お、遅ッ。」
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