第26話 サイン2

失礼する前に聞く事があったわ。


「あの部屋、まさか愛人の部屋だったんじゃないですよね?もしそうならゲストルームにかえてください。」


「あれは結婚した時に用意させた部屋だ。」


「そう、よかった。では今度こそ失礼します。」


バタンッッ


おもいっきり扉を閉めると、目の前にミランダがいた。

「失敗した?」

「うん…。」

「そう、とりあえず部屋に戻りましょう。」



部屋に帰っても私の苛立ちはおさまらなかった。

「ついさっきまで偉そうに契約書にサインするって言ってたのに、『1年で離縁』だけは即決できなって!」


「期限も設けられなかったの?」


「…子供が産まれてから1年の間に決めるって。」


「期限ギリギリまで答えを出さないとしても、前向きに考えればいいわ。どのみち1年はいるつもりだったんだから、それでも答えないなら365日目に私がガツンと殴っ…言ってやるわよ。」


今、『殴る』って言おうとしてたよね。さすがだわ…。


「契約項目の2~7はのんでくれるんでしょう?」

「うん」

「なら、給金は貰えるし、指一本触れられる事はないし、愛人の妊娠もないし、私も側にいられるし、会いたい人に会えばいい。問題ないわよ。」


「そっか、この1年で素敵な人に出会えるかもしれないしね。でもこっちで探すと農家弟子入りが出来ないから、離縁してからじゃないと…。」


これからの人生設計だと25才で再婚予定だし…。上手くいけばだけど。


「今は素敵な人より、シュート君の事を考えないと。」


「ルーナだって色々あるんだし、シュートの事は無理しなくてもいいのに。」


「駄目よ。口約束でも約束なの!しかも私から招待するって言い出した事なのよ。『都を見てみたい』って言ってたわ。多分、私にしか言えない本音よ。」


畑や旅費を考えたら両親には絶対に言えないよね。大切な家族にだからこそ言えない事もある。


「あの3兄弟は優しいルーナに我が儘言いたいのよ。」


「ミランダ…。このレベルは我が儘だなんて言わないのよ。」


「…ルーナは何をしたの?」


「招待されたお邸での話なんだけどね、その辺にはえてた雑草を物凄く高そうな花瓶にぎゅうぎゅうに詰め込んだりしてたわ。それを気に入ってずっと離さなかったの。結局無理を言って持って帰った記憶があるわ。他にもまだまだあるわよ。」


「我が儘と悪戯のどちらに突っ込んでほしい?」


「呆れるよね…。私のは本当に我が儘。シュート君のは我が儘とは違う部類よ。」


「そうね。」


思い出した…。花瓶をくれたのは確かアレン様よ。向こうからすれば忘れたくても忘れられない迷惑な女の子。お父様、よく私を自慢出来たわね…。

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