第2話 来なくていいです。
いつもいつも、侯爵が来るのは面倒でもある。
「私はただの子育て要員ですし、子供が生まれるまでもう来ないでください。」
「…わかった。もう2度と来ない。ご機嫌とりもしなくていいなら楽だ。」
やっと本音を言ったわね。
「ええ、さっさとお帰りください。」
これで『本当に俺は君が好きなんだよ』アピールは終了ね。
せいせいするわ。
私を子育て要員として扱うつもりなのが後ろめたいだけ。バラされたりしたら意味がなくなるんだし。
向こうも必死ね。
「…ねぇ、子供が生まれるまでなら、ここを離れて暮らしてても気が付かれないと思わない?もうご機嫌とりに、あの人は来ないんだから。」
「そうですね。」
出産までに3ヶ月ほどある。私の事を侯爵夫人だと気が付く人間がこの街にいる?いないはずよ。それに、伯爵の娘としての貴族の付き合いも個人的にない。
「よし!そうと決まれば即実行よ!!」
愛人の出産をおえてから、1年ほど子育てして離縁!!
お仕事で子育てしていた事にして、離縁する時にその給金を貰う。そして新しい生活スタート。
この3ヶ月は下積み時代。ううん、子育ても社会勉強っ!!
そう思えば未来は明るい!
あの男に子供がいようがなんだろうが、既に子のいる侯爵の後妻だとわりきればいいし。
「ルーナ様、ご機嫌ですね。」
「ええ。何だか未来が輝いてきたわ。」
「輝く?」
「ええ!」
さっさと『来なくていい』って言えばよかった!
・・・・
一週間後。
「ルーナはどうだった?」
様子を見に行った執事長が、呆れた顔をして紙を一枚渡してきた。
「机の上にこれが。」
『予定日の7日前には戻ります。ルーナ』
「何だ…これは…。」
「読んだ通りです。小屋はもぬけの殻、おそらくあの場所に帰るつもりはないかと。」
執事長マイセンは、父が亡くなってからも俺に厳しい。ラッセン家の執事である事を誇りにしている男は、そう嫌みたらしく俺に言った。
「探しだせ…。何かあったらどうするんだ。」
これじゃ何のために山小屋まで用意したか、意味がない。
「ルーナ様はご自分を『子育て要員』だと仰っておりましたし、子供が産まれるまで好きな事をして何が悪い…と言う事でしょうね。」
「……」
「はぁ…結婚などしなければいいものを。」
「エリーゼの為だ。」
そうでなければ、結婚なんてしていない。貧乏な伯爵の娘なんかと。
「…自分達さえ被害者にならなければ、他人の人生を犠牲にしてもいい…という事ですか…。」
「…何が言いたい。」
「亡くなったご両親が今のラッセン家を見たら、嘆き悲しむ気がしただけです。あくまでも個人の感想ですが。」
「……」
「これから子が欲しいと思っても諦めざるをえません。『
「その時は離縁する。」
「それは向こうの台詞でしょう。今頃別れた後の事を考えて楽しみにしてますよ、きっと。でなければ、あの小屋を離れるはずがない。」
「俺との結婚に喜んで応じたのは俺が侯爵だからだ。向こうも俺を本気で好きな訳でもない。」
「貴族の結婚などそんなもの。普通なら奥様だって割りきる事も出来るでしょう。ですがあまりにも酷い扱い。奥様自身から『子育て要員』という言葉が出てしまってる時点で、自分はただのメイドと同じだと思ってます。この結婚、私は何一つ賛同できません。後の祭りですが。」
「っ今更どうしろって言うんだ。」
「ええ、今更どうにも出来ません。」
「……」
ルーナを選んだのは『逃げ場』がなさそうだからだ。何があっても実家に帰る事はないだろうと…。
万が一にもルーナが妊娠していないと気がつかれた場合、事態が悪化するだけだ。
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