侯爵夫人は子育て要員でした

リオ

第1話 結婚

「こら!ルーナ!危ないから走っちゃ駄目よ!!」

「だいじょーぶー!」


ドンッ

「わっ!?」

「キャ!」

角を曲がった所で男の子にぶつかってしまった。

「…何をやってるんだ、お前は。」

「ごめんなさい!!」

その人はぶつかって転んだ私に手を差し出してくれた。どこでだったかは憶えてないけど、それは私が10才の時。綺麗な男の子に一目で恋におちた。


あれから10年。

5年前にお母様が他界、1年ほどでお父様は再婚した。そして悲しい事にお父様も他界してしまった。私は継母に虐められてるのである。


早く結婚でも出来ればいいんだけど。今日のパーティーも『邪魔だから出席するな』…って。20才になって出会いもない。誰かと結婚なんて無理なのかもね。


「ん?」

何だか急に邸が騒がしい。

「お嬢様!大変です!」

「何を慌ててるの?盗みでもあったの?」

「はは、盗人にはされたくないな。」

「……誰?」


突然部屋に入ってきたのは、背の高い金髪碧眼の綺麗な顔立ちの男性だった。


「ルーナ、俺と結婚してくれませんか?」

「へ?」


ちょっと待って…。勝手に部屋に入ってきて、いきない結婚してって…普通無理でしょ。しかも、親しくもないのに呼び捨てにされるなんて。


「あの、貴方は一体…」

「ああ、すまない。俺はトーマ・ラッセンだ。」


ラッセン…


「まさか、ラッセン侯爵…」

「ああ。返事を聞かせてもらいたい。」


こんなの、断れる訳ないっ!!


「…っはい、よろしくお願いします。」

「よかった。10年前に君とぶつかった日から、ずっと気になっていたんだ。」

「…では貴方はあの時の?」

「憶えててくれたんだね。嬉しいよ。」

「私もです。」


それから、すぐに結婚。私はルーナ・ラッセンとなったのだけれど…。

結婚してすぐに後悔した。

あまりにも結婚までの流れが早かった理由と、結婚した理由。


愛人が懐妊したのを私の子供として扱う、それだけのため。

既に私達は付き合っていて、プロポーズされた日には妊娠していた…って流れになってるらしいわ。


そんなの誰も信じてないのに、形だけね。


妊娠しているのにお腹が大きくならないのもおかしいから、それが誰にもわからないように閉じ込められてるのよね。

小さな山小屋に、侍女ではなく女騎士のミランダと2人暮らし。


「ミランダは『格好いい』と言われたりしない?」

「無いとは言いませんが、別に何の得にもなりませんよ。」


黒髪のショートカットに鋭いダークブラウンの瞳、それに長身。170㎝くらいはあるよね。

その辺にいる男なんて相手にならないわ。


「私の好みではありませんが、トーマ様は貴族の女性にかなりモテていましたよ。」


トーマの容姿が素敵なのは解ってるのよ。子供の私は一目惚れしたわけだし、好みではあったわ。


「中身が駄目だと、外見がよくても駄目なのよ。」

「中身がよくても、外見がだらしなかったらどうしますか?」

「度合いによるわね…。」

「私は太ってる人が苦手です。自己管理が出来ていないのが丸分かりなので。」

「ふふ、ミランダのように鍛えてる人から見るとそうよね。」


さっぱりした性格だし、話しやすい。一緒にいるのがミランダだというのが、私の唯一の救いだわ。




あれから3ヵ月


「ルーナ、元気か?」

「はい。」


忙しいのに週1回は会いに来る。ご機嫌とりもいいところ。

これなら会いにこないほうがスッキリする。


「心配してるふりなどしなくて結構です。子供が出来たらかえりますので、どうぞのもとへお帰りください。私は気分がすぐれませんので、奥で休ませていただきます。お好きな時間にお帰りください。行きましょう、ミランダ。」

「はい。」


「今日は何時間いると思う?」

「この前は3時間いましたよ。今日もそれくらいはいるんじゃないでしょうか。」

「さっさと帰ればいいのに。」


偽物の心配も何もいらない。私はずっとこの山小屋にいてもいいのよ。

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