ソノタモロモロ

イツミン⇔イスミン

第1話 わたし、遅刻しました。

 不可思議なことは、人間誰しもに訪れる。

 いや、人間誰しもに、不可知儀な力があると言ったほうが正しいだろうか。


 それは自覚していたりしていなかったり、ふとした瞬間にあらわれて、そして消えていく。


 わたしの場合は、ドアの向こうを別世界に接続してしまうという、とんでもないものだ。

 今はもう自覚しているが、自覚していなかったころなどは、大いに戸惑った。


 戻る道がわからず、陽が暮れたって家に帰れず、途方に暮れて、迷子騒ぎやら家出騒ぎになった。


 高校生となった現在はもう、不可思議な力についてもだいぶ慣れてしまったが、かといって問題がないわけではない。

 なぜかというと、このドアの向こうを別世界に接続してしまう力は、決まって朝学校に行こうという忙しい時間に訪れるからだ。


 だいぶ慣れたと言っても、別世界に放り出されるというのは、それはそれは時間がかかる。

 今では法則性もわかってきていて、どのタイミングでどのドアをくぐれば元の世界に戻れるかとかもわかってきているが、しかしそれで正解のドアをすぐにくぐれるかというとそうではないのだ。

 正解のドアを探して右往左往するうちに、時間は刻一刻と過ぎていって、気づけば一限や二限をやり過ごしてしまうなんてのはざらだ。


 だからわたしは、今はもう、不可思議な力についてはだいぶ慣れてしまったが、かといって問題がないわけではないのだ。


 不可思議なことは、人間誰しもに訪れる。

 いや、人間誰しもに、不可知儀な力があると言ったほうが正しいだろうか。


 それは自覚していたりしていなかったり、ふとした瞬間にあらわれて、そして消えていく。



 わたしの場合は、ドアの向こうを別世界に接続してしまうという、とんでもないものだ。




 それはファンタジックな世界だったり、メルヘンな世界だったり、サイエンス・フィクションの世界だったり、スチームパンクの世界だったり……。




 今日も今日とて、玄関のドアを開けると、眼前に鬱蒼とした森林が広がっていた。


 真冬とは思えない、むわっとした空気が流れ込み、マフラーを巻いたわたしはげんなりする。

 ため息交じりに一歩を踏み出し、まだ青々とした落ち葉を踏むと、ざく……なんて音がして、ローファー履きの足元が一センチばかり沈みこむ。


 結局この日は、五つか六つのドアをくぐって、朝のホームルームが終わるころにやっと学校にたどり着いた。

 最初の原始の世界なんかは、ドアが簡単には見つからなくて、マラソン選手かというくらいに走らされた。




 これだから、どれだけ朝早く家を出ようとも、いつ学校につくかなんてのはわからないのだ。




「相沢、遅刻の理由を言ってみろ」

「大荷物を持ったおばあさんを助けていました」


 半ば呆れ気味の先生に聞かれ、わたしはそうと答える。






 さて、本当のところは――?

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