第11話 覚悟と代償、そして「私」

「お前は…誰だ?」


突然現れた仮面の女に誰何する


「私ですか?別にどうでもいいではないですか」


…そういやこいつどうやってボス部屋に侵入したんだ?ゴブリンジェネラルは瀕死だがまだ生きているし、そもそもおっさんが入れていないのに


「まあ、しいて言うならとある組織の所属的な感じですね」


「…」


説明が適当すぎる!


「…目的はなんだ」


「目的?」


女がわざとらしく首を傾げたあと、言った。


「あなたを殺すために決まっているじゃないですか♪」


…ッ!こいつッ!敵か!


「だからおとなしく死んでくださいね」


その瞬間、仮面の女から恐ろしいまでの殺気のようなものが放たれる。


…おいおい、殺意が高すぎて、俺でも殺気を感じとれてしまったぞ…


と、突然


「カハッ!」


後ろからうめき声と人が倒れる音がした。


慌てて振り向くと春樹が泡を吹いて気絶していた


「春樹!」


まさか…今の殺気で…


あわてて春樹の元へ向かおうとすると


「あれ、ただの威圧で気絶だなんて随分と貧弱な人ですね」


「お前…」


「まあいいです。手間が省けました」


私はスコップを構える。


「やるか?スコップの錆にしてやる」


私が威嚇すると


「ふふ、まさかあなたごとき私が相手するまでもありませんよ」


「…じゃあだれが」


「もちろん私の傍らに倒れているこのゴブリンジェネラルさんですよ♪」


そういって奴はポケットから黒い石ころのようなものを取り出すと、瀕死のゴブリンジェネラル前まで行き、そしておもむろに手で握った黒い石ころをゴブリンジェネラルの胸に叩きつける。


「グギャャ!」


叩きつけられた石はそのままゴブリンジェネラルの体に吸い込まれていく。


そして…


―ドクンッ!


ゴブリンジェネラルからありえないほど大きな鼓動の音が聞こえてきた。


「グギャャャャャャャャャャャャ!」


ゴブリンジェネラルのおぞましい叫びと共、ゴブリンジェネラルの体が膨張、変化していく。


うーん…なんかやばい雰囲気


「じゃ、私はこの辺で永遠にさよならー、もしもゴブリンゴッドに勝てたらまた会いましょう…「代行者」♪」


「お、おい」


そう言い残して仮面の女は忽然と姿を消す。


空間に溶けるようにして消えた。何かのスキルか?


…ゴブリンゴッドに代行者と意深で意味不明な言葉を残していったな。


まあ、あの女の纏う気配からして、なんかやべえ感じがしたから、いなくなってくれたのなら幸いだ。


過ぎたことはいい、まずは目先の事に集中しよう。


黒い石ころを埋め込まれたゴブリンジェネラルは今や巨大な卵のようになっていた。


…春樹の介抱に行きたいのだが、なぜか目の前の巨大な卵のようなものから目を離すのは危険に思えた。


とその時、


―バリバリバリ


巨大な卵のようなものが砕ける。


そしてその中心にはあるものが鎮座していた。


身長は3メートルを越える、全身を黄金に輝かせた、筋骨隆々の人型の魔物


…なるほどゴブリンゴッド、こいつの事ね。


俺は奴を見た瞬間理解した。


おいおい、まさに神を名乗るにふさわしい神々しさだな、ゴブリンのくせに。


全身から汗が噴き出でてくる。奴の纏う強者の雰囲気にあてられている。勝てる気がしない。


…まぁ、だからといって諦められるわけがないがね、俺が負けたら春樹も助からないだろう。


ゴブリンゴッドはその場に悠然と立っているのみ、しかし強烈な敵意を感じる。


戦いは避けられそうにない。そもそもこいつを倒さなければここから出られないしな。


…はぁ


ならば、先手必勝!一撃必殺!幸いフィジカルブーストはまだ継続している。




―ダッ!




地面を強く蹴った俺は悠然とその場に立ち続けるゴブリンゴッドに一直線に向かう。


「俺は所詮戦いの素人だから、これしか選択肢はねぇんだよ!くらえ!」


ゴブリンゴッドの目の前に到達した俺はシャベルを全力で奴めがけて叩きつける。


くたばれ!




―パシッ




「は?」


全力で叩きつけたシャベルは軽い音とともに、奴に指先で受け止められた



…ああ、これは、レベルが、格が違う。


そんなことをぼんやりと考えていたら、奴の足が動いたようにみえた


「え、あがっ!」


そして気が付いた時には奴の足が俺の腹に食い込んでいた。


まともに蹴りを食らった。


「ぐあっ!」


気が付いた時にはボス部屋の壁に叩きつけられていた。


そのまま俺は地面に落ちる。


はは、笑えねぇ威力だ…


「ガハッ、ゲホッ」


俺は血の塊を口から吐く。まずい、痛みで体がばらばらになりそうだ。


これは肋骨どころか内臓までやられていそうだ。だめだ、ほとんど体がうご、かねぇ。


俺は地面に這いつ這いつくばりながら奴の方をみる。


奴は些かつまらなそうな表情をしてこちらにゆっくり一歩、一歩近づいてくる。


クソッ、なめやがって


しかし…ああ、これは死んだな、俺、すまん春樹お前を守れそうにない。


…どうか俺が殺さている間に春樹が目を覚まして帰還の羽を使いますように。


俺はそう祈りながら目を閉じた。


…我ながら無責任なもんだ、ぜ。












「全くだのう、お主、弱いくせに、あきらめが早いとか、救いようがないぞ」


…しょうがないだろ、どうしようもない状況なんだから。


「最近の若者は根性がないのう」


はっ、老人の小言は遠慮して…って


「え?」


驚いて再び目を開けると、周囲の状況が変わっていた。


悠然とこちらに向かってきていたゴブリンゴッドはまるで時が止まったかのように停止していた。


「な、に、が」


「わしがちょっと細工をしたのじゃよ」


女の、それも少女のもののような声が横から聞こえた。


首を回してそちらを見ると、そこには、はたして


女が立っていた、なぜか古臭い袴をきた丁度俺と同じ年ごろと思われる少女だ。


「あ、ん、た、は?」


「む?わしか、わしはお主に憑いた呪神武器ぞ」


呪神、武器?


「…まさか、あの時蔵に、あった」


「そうじゃよ、あの時の刀じゃよ」


袴の少女はにやりと笑う。


はは、刀が人の姿になったのかというのか、あほらしい。


「で、お主、どうする」


…どうする、とは


「わしを…呪神武器を解き放つか、相応の代償を支払ってのう」


解き放つ?代償?


…ああ、そういやあのおっさんがいっていたな。




―とても大きな代償を支払うことになるらしい、と




「で、どうする?わしを解き放つか?そうしないとお主?死ぬぞ?」


笑いながら問いかけてくる、はは、さすが呪の武器だけあるな。



でも、まあ…俺に選択肢はないよな、俺は死んでも春樹を守らないといけないし。



そして俺は言う


「ああ、解き放つ…代償を支払って」


俺は覚悟を決める。


「わっはは、そうか、そうか、では代償はどうしようか…そうだな、お主の寿命の半分とお主の一族の命を…ん?」


袴の少女は代償の内容を言いかけてふと言葉を止めた。


…なんだ?


そして袴の少女は、怪訝な表情を浮かべた後、にやりと笑った。


「ふふふ、そうか、そうかお主は「そういう存在か」実に面白い」


そういう存在?なんの話だ?


「ならば代償の内容を変えよう。そうだな…」


そうしてためつくったあと袴の少女は言った。


「お主の男としての自認を代償としてもらおう」


そう言った。


…は?一体どういう?


「どうやら、お主…男に戻るためにダンジョンに潜っておるのだろう。じゃから、代償の内容は簡単じゃ…お主は男である精神を奪われて心も女に近づくのじゃ」



…ははは、なるほど、なるほど、そうか…そうきたか!


「ミイラ取りが、ミイラになる、だなこれは」


はぁ、確かにこれは命並みに重い代償だな、俺にとっては。


「なにを言っておる。これでも本来よりはずっと軽い代償じゃぞ」


はは、そうかいそうかい、ま、どっちにしろ俺に選択権はない。俺の命だけではなく春樹の命もかかっているからな


「ではわしを解き放つということでいいのじゃな!」


ああ、それでいい…代償を払おう。俺の…アイデンティティの一部を払おう。


「契約成立じゃ、そうじゃ、わしはとある戦艦の主砲から切り出され、打たれた一本じゃ…


「三笠」、刀形態では「三笠刀」と、とりあえずそう呼ぶといい、では、ゆくぞ!」


そういう言うと袴の少女…三笠は突然、炎と火花に包まれる。


そして火花と炎が晴れたそこには、一本の、三笠と銘うたれた刀が突き刺さっていた。


俺は立ち上がりその刀の柄を握る。その瞬間俺に膨大な力の奔流が流れ込んでくる。鉄と火花と砲煙のにおいがする力が。


…それと同時に俺の心の奥底から何か大事なものが失われていくのがわかった。




―代償を、支払ってもらうぞ?


―ああ…覚悟はできている




そして俺…


い・や・私・は・刀・を・引・き・抜・く・。


そして私・が立ち上がったことに困惑しているゴブリンゴッドに向け刀…三笠刀を向ける


…さあ、私・は代償を支払った、お前にも代償を支払ってもらおう、ゴブリンゴッドとやら




―お主は代償を支払った、存分に暴れるといい、…代行者なる存在よ、ふふ


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