第13話 第十二夜 開き直って未来の話

 

 輝の心配をよそに輝はまたいつものように王の寝所に呼ばれた。昔話のネタも尽きた。有名な話ならきっとまだいくつか思い出せるかもしれないが、昨日のことで気持ちが昂って今更桃太郎の話もする気になれなかった。


 いっそのこと。


‟王様、今夜は未来の話をしましょう”


‟未来の話、とは”


‟あたしは多分この世界よりずっと、何百年も先の世界から来たんだと思います”


 昨夜の今夜でやはり気まずそうな顔をしていたシャフリヤールも輝の唐突な言葉に目を見開く。


“お前、頭がおかしくなったのか?”


‟信じてもらえないかもしれませんね。まあ作り話だと思ってもらっても構いませんけど”


 多分ここは異世界だから未来の話をしても歴史を変えるうんぬんの問題はないはず。自動や、飛行機、電話、テレビ。ネタは尽きない。


“さて何の話から始めましょうか。やっぱり必須アイテムのスマホかな”


 輝は意気揚々と話し始める。


‟日本ではほとんどの国民のが持っていると思います。これくらいの四角い板みたいなので、遠くにいる人と話をしたりメッセージを送ったりできるんです”


 両手で四角を作り説明する。


“ほう、それはどういう仕組みになってるのだ?”


‟わかりません”


‟魔法か?”


‟魔法じゃないです。テクノロジーです”


“テクノロジー?”


‟頭のいい人が作った機械です”


‟機械?”


‟いろんな仕事をしてくれるものです。この場合は遠くの人と話ができる。手紙を直ぐに送れる、かな。その板が一つあればゲームもできるし写真も撮れるし”


‟ゲーム?写真?”


 あー説明がめんどくさ。しかも仕組みとかわかんないし。スマホ失敗。


 よし、と輝は真面目な顔でシャフリヤールを見る。


‟王様、未来の話をするにあたって大事なことを一つ約束してくれますか?”


“なんだ?”


‟絶対に仕組みについて質問しないこと”


“なぜだ”


‟企業秘密です。話すことを禁じられてるんです。それを約束してもらわないと話せません”


 と言うか話が進まない。


‟…わかった”


‟じゃあ、もう少しわかりやすいところで車と飛行機の話をしましょう”


 ~~~


 未来の話は三日続いた。シャフリヤールは今までしたどの話よりも興味を持って聞いてくれた。


‟お前の頭の中はどうなっておるのだ”


 シャフリヤールは輝の頭に手を置いてさらりと髪にその指を滑らせた。


‟お前の語る道具は本当に存在するのか。魔法ではないのだな”


“魔法ではなく機械です。そしてすべてに仕組みがあります。同じものを何個も作ることだ出来てどんな人でも使えます”


‟お前の話を聞いていると我も違う世界に行っているような気持になる。飛行機という乗り物で空を飛び、電話で離れている人間と話をし、文を書けばあっという間に相手に届く。テレビやインターネットというものを使えばこの場にいても世界中の出来事が即座にわかる”


‟あたしは生まれた時からそういう環境にいたので当たり前に思っていたけど、考えてみるとそいうのを作り出した人はすごいですよね”


 今更ながら自分は何も知らないんだなーと思ってしまった。今までそんなこと考えたこともなかったけど。

 シャフリヤールは輝を抱きかかえて膝の上に乗せ髪をすきながらつぶやく。この三日間未来の、主に道具の話をしてきた。王様はいたく興味を示し、徐々に距離が近づき気がつけばこの状態。


‟我は今まで未来、などという事を考えたこともなかったぞ。もしお前が本当に未来から来たのならお前にとってこの国は文化が遅れたつまらない国に思えるのだろうな”


 この距離感がいたたまれないのだが、拒否すると機嫌が悪くなるので大人しくしている。それにシャフリヤールの手つきは優しいのでされるがままにじっとしていた。


 猫扱いだな。気持ちいいからいいけど。


“そんなことないです!あたしだって誰かが作ったものを使ってるだけで自分は何も作れないし知らない。それにこの時代のこの国の事ちっとも知らないからどうのこうの言える立場じゃないし。大体この建物の中から出たことないですよ。出ちゃだめって言われてるしどっちにしても一人じゃどこにも行けないし”


“そうか”


 シャフリヤールは、ふむ、少し考えて


‟よし、明日は宮殿の外に連れて行ってやろう”


“え!本当?良いんですか?”


“ああ、ザキーラにこの国を見せたい”


“やた!”


 外に出られる!


 両手をパチンと合わせて喜ぶ輝をシャフリヤールは微笑んでみていた。


“楽しみにしていろ”


 と言い輝の額にチュッと口付けを落とした。


 ひぇーーーー

 心臓に悪すぎる!

 なんか、王様甘くないか?


‟明日は出かけるのだから、今日はもう休むぞ”


 そう言って輝を抱いたまま横になった。


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