第7話 第四夜 日本昔話をしよう
‟お妃さまの具合が悪い?”
次の日の夜、ナダ―が輝を連れに来た時彼女の表情は曇っていた。
“お子は無事に生まれたのだが。これは口外してはならぬが、出産に時間がかかりすぎたのとたいそう血を失われたのでお妃さまは大変弱っておられる。当分床からは出られないだろう。今朝から熱も出されており、お話も無理だ”
そ、そんなーーー
今日明日、せいぜい二、三日はいいとしてそれ以上だと輝もネタが付きてしまう。
‟どれくらいでよくなりますか?三日くらい?”
ナダ―は首を振り、
‟私たちにもわからない。それに容体が落ち着いたとしても王へのお勤めは当分無理じゃ。幸いお前は予想以上にいい働きをしている。頼むぞ”
頼むぞ、と言われても、ネタが。
じーちゃんだったら、風前の灯火、首の皮一枚でつながってる、とかいいそう。
“今、予備のおなごを調達するべく奔走していることろだ。お前には何とかそれまで持ちこたえてもらいたい”
いや、持ちこたえられない時ってあたしが死ぬときでしょ。
輝はどんよりとして王の寝所へ入って行った。
‟今日は私の国、日本の昔話をしましょう”
考えてみれば無理にアラビアンナイトの話をしなくていいのだ。どうせ外国から来たことになってるのだから。
~~
“桃から子供だ生まれるなど、不思議な話だな”
“物語ですからね”
‟きびだんごとはどういう食べ物なのだ?何からできてるのだ?なぜ食べると強くなれるのだ?”
“きびだんごはキビからできてます。キビが何かは聞かないでください。食べると強くなるのはレシピがないからよくわからないけど、今でいうカフェインとかプロテインが入っているのではないでしょうか”
事務的に答えてみる。
‟鬼とは何だ。魔人の様なものか?”
“たぶん”
昔話について突っ込まれてもよくわからん。
‟日本とはどこにあるのだ。中の国とは違うのか。お前の顔や肌、髪の色などは似てると思うが”
意外に好奇心旺盛な王様がさらに質問してくる。
中の国。中国の事?
‟あ、見た目は似てるだろうな。でも言葉とか全然違いますよ”
“お前はなぜそんなに知識があるのだ。日本ではどういう生活をしていたのだ”
とりあえずあたしは高校生で、毎日学校に行ってて…と、日常生活から家族の話をする。
両親や兄弟、友達の話題はあまりなかったが祖父母の話はたくさんした。
‟おじいちゃんは発明家でとっても頭がいいんですけど、ちょっといい加減というか、抜けてるところがあって”
だからあたしは今ここでこんな目に合ってる。
“お祖母ちゃんは私が小さいころ死んじゃいました。優しくて大好きだったからすごく悲しかった。若いころはすごく美人で名前が輝子だったからかぐや姫なんて呼ばれてたそうです。あたしの名前もそれから貰ったんだって”
“?”
“あ、輝っていう漢字でアキラって読むの。あたしの顔もおばあちゃんに似て美人だったらもう少し人生楽しかったかな”
つい独り言ちしてしまった。
俯いていたらすっと手が伸びてきて顎を捉えられる。顔を上げると大きな瞳が見つめている。
ドキドキドキ…心臓が…
‟…お前は醜くはないぞ”
なんて消極的な慰めの言葉、ありがとう。
‟お前の名前のアキーラは高貴な女性という意味だと言っただろう。顔の美醜だけではなく顎を上げ、誇りを持ち、その様にふるまえばそうなる"
あたしのことを奴隷として扱ってる王様にそんなことを言われても説得力はないけど、何となく元気づけられてるのはわかった。
“ふふ、優しいんですね、王様”
ありがとうございます、と言ってにっこり笑った。
‟…”
“?”
王様が惚けた顔をした。
‟笑った”
“あ、そういえばここに来て初めてかも”
‟そのような笑顔を見たのは久しぶりだ”
“まさか”
“皆、我の事を恐れて怯えてるか、顔を隠して俯くか、あからさまに媚を売るか、そんな表情ばかりだ”
いや、それはあなたにも責任があるんじゃ。毎日女の人を殺してたんなら、そりゃ周りもあっけらかんと笑ってなんかいられないわ。
思わずそう言いそうになって口を噤む。
だって今はこの王様がそんなことをするようには思えないから。
‟もっと笑え、ザキーラ”
そう言って微笑んだ王様の笑顔もドキドキするくらい素敵だった。
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