第4話 第一夜 アリババと…ドア
‟昔々ある所に貧乏だけど正直で働き者な男がいました。男の名前はアリババと言いました”
名前に響きになじみがあるせいかシャフリヤールは、ん?という顔をした。輝がアラビアの話を始めると思わなかったのかもしれない。
一方輝は内心話をどう進めようか悩んでいた。
どうしよう、話の続きがわかんない。
だらだらと冷や汗をかいていたが、さっきシェヘラザードが話してくれた部分を綴っていく。
‟…盗賊の頭が、開けゴマ!と唱えると大きな岩が二つに割れ中からまばゆい光がもれてきました。そこに現れたのは宝物の山…”
どうしようどうしようどうしよう
‟…盗賊たちが立ち去った後、アリババは岩の前に立ちました。そして開けゴマ、と唱えると大きな岩は二つに割れて中からまばゆい光がもれてきました。そこに現れたのは宝の山。アリババは大喜びで持てるだけの宝物を取って家に帰りました。そしてお金持ちになり幸せに暮らしました。おしまい”
‟…お終いなのか?”
シャフリヤールがピクっと眉を動かした。
輝はハッとした。
まずい!こんな早くお終いにしては私の命もお終いになってしまう。
短すぎる!アリババの話。
輝は必死で考える。
えっとこのお話のタイトルは確かアリババの冒険?違うアリババと四十人の盗賊。
待って!盗賊なんにも活躍してないじゃないか。四十人もいる意味ないじゃん。
明らかに機嫌が悪くなるシャフリヤールに向かって輝は手のひらを向けて待ったをかける。
‟ま、まさか、お終いなわけないじゃないですか。やだなー。めでたくお終いだと思ってたのはアリババだけですって。実はアリババが宝を持って家に帰った後盗賊が忘れ物を取りに戻ってきてまた岩の中に入り宝が盗まれたのに気が付きます”
“ほう”
‟そしてそこでアリババの名前の付いた帽子を見つけます。アリババがうっかり帽子を落としていったのです”
“帽子?”
帽子じゃない。さっき見た護衛たちを思い出す。
“タ、ターバンを落としたの、ターバン”
‟ターバンを?落としたのか?”
‟そう、アリババはターバンに宝物を包んで持って行ったんだけど実は二枚巻いてて一枚落として行ったのです”
‟…”
‟そんなこんなで盗賊たちはアリババの居所を突き止めて仕返しに行きました”
シャフリヤールは少し身を乗り出す。
お、イイ感じ。
‟盗賊たちが襲って来てアリババも家族もびっくりします。でも、アリババにはすごいお宝がありました。持ってきた宝物の中になんと「ど○○もドア」があったのです”
‟なんだそれは”
‟ま、聞いててください”
なんか調子が出てきた。
‟それは開けるとどこでも行きたいところに行ける魔法のドア、扉です”
‟…”
‟アリババはそれを持ってきて家族と一緒にドアの前に立ち、開けゴマ!と唱えてドアを開けました。すると開いた先に見えたのは遠く離れた隣の国”
シャフリヤールはまた少し身を乗り出した。
‟アリババは家族と一緒に持てるだけのお金を持ってそのドアをくぐりドアを閉めました。そしてドアを畳んでポケットにしまってしまいます。追いかけようとした盗賊たちの目の前でドアが閉まり、次の瞬間ドアは消えてしまいました。こうして無事に盗賊たちから逃げることができたアリババとその家族は隣の国で幸せに暮らしました。お終い”
輝は一気に語ると、ほっと溜息をついた。
何とか話を終わらせたが、おそらくそんなに時間はつぶせてないだろう。恐る恐るシャフリヤールの顔を覗き見ると、何やら考え込んでいる。
シャフリヤールは少ししてから
‟その、ドアとやらは行きたいところ、どこにでも行けるのか”
“そうです。本当にどこへでも”
ピーンと良いことを思いついた。
“だからアリババは盗賊が帰った後家に戻って残してきたお金や家のものを取りに行ったりできましたし、お金が無くなったら盗賊の宝の山に行ってもっと宝物を持ってくることもできます”
“それはすごいものだな。盗賊はそのドアの事を知らなかったのか”
‟知らなかったんでしょうねぇ。見た目は別に普通のドアですから、まさかそんなスグレものとは思いもしなかったんでしょう、バカですね”
輝はうんうんと頷きながら答える。
こうしてシャフリヤールは気になることをいろいろと質問してきて輝が適当に答えるうちに夜が明けてしまった。
‟ザキーラ(ちび)、お前の話は存外面白かったぞ。また今宵も来るがよい”
“は、はい!喜んで”
両手を胸の前で組み、輝は涙ぐんで答えた。
そうですか、またここに来るんですか。
でもとりあえず助かったー神様、ありがとう、ありがとう。
迎えに来た女は輝が部屋から出てきたことに驚いていたが、同時にほっとしたようだった。
”昼のうちにゆっくり休みなさい。また今宵も迎えに来ます“
ああああ、あたしは生きている。
中庭に佇み寝不足の目で空を見上げると抜けるような青い空に朝日が目に染みる。十七年間生きてきたこんなにも生を実感したことはなかった。
太陽がまぶしい。風が気持ちいい。草の匂い。ああ、生きてるって素晴らしい。
両手を日にかざしてその暖かさを受け止めた。
後宮《ハーレム》と言うところに連れていかれ、その中でも小さい部屋に入れられた。だが中はきちんと整えられており、たくさんのフルーツやパンなどの食べ物と飲み物をを与えられ、輝はその後ベッドに倒れこんだ。
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