エピローグ(2/2)

「はー。あったかーい」

「あ、見てアキちゃん、これ初めて見るね」

「ホントだ新商品だねー」

「チョコの種類も増えてきたね」

「冬だもんね!」

「アキちゃん冬好きなの? 私はあったかい季節の方が好きだなぁ。寒いのはちょっと苦手……」

「私は、春も夏も秋も冬もぜーんぶ好きだよっ?」

アキが楽しそうに笑って答えれば、不意に耳元で囁くような声がした。

「アキさんらしいね」

不意打ちの低音イケボにアキは真っ赤になる耳を押さえる。

「うん。アキちゃんらしい」

ミモザが同意する。その後ろに空が、そのさらに向こうに大地が立っていた。

「つーか待ち合わせはスクリーン前だったろ? なんでキミらは勝手に店入っちゃってるわけ?」

一番背の高い大地が、上から困った顔で二人を見下ろした。

「そ、それは、私が……」

ミモザが大地の言葉に小さくなる。

「あはは、スクリーン前は、ミモザにはちょっと刺激が強過ぎて」

アキが明るく笑って答えれば、大地は口を尖らせた。

「じゃあせめて移動するってRINEしてくれよ」

「はーい、ごめんなさい」

素直に謝るアキに、ミモザが慌てる。

「アキちゃんが悪いんじゃないよぅ、私のせいなのに……」

「ああミモザちゃん、心配しなくても別に俺は怒ってねーし、アキちゃんも別に凹んではねーだろ」

「凹んではないですけど、ちゃんと反省はしましたよ?」

けろりと答えるアキに、大地は「おお、えらいえらい」と笑う。

空が甘く優しい声で「そんな探したわけでもないから、気にしないで」と言えば、アキは途端に真っ赤になった。

「ぶはっ。おもしれー。アキちゃんいつまでも空の声に耐性つかねーな」

「大地、人をからかうのは良くない」

「へーい」

「レビュー用のお菓子選び?」

空に問われて、アキは手に取ったままだったお菓子に気付き、真っ赤なままでコクコク頷く。

「は、はい」

「もし良かったら、僕が専用BGMでも作ろうか? 今フリー音楽サイトのを使ってるよね」

「えっ」

アキが瞳を輝かせれば、大地もにっと笑って言う。

「じゃあ俺、タイトルとかちびキャラとか描いてやろっか?」

「大地さんまで……。うう、お菓子動画まで目立ちたくないですよぅ」

ミモザが自分の長い髪を顔の両側から持ってくるようにして、顔を隠す。

「あはは。ミモザがその気になったら、お願いさせてください」

ミモザの様子に、アキは苦笑しながら答えた。

大地は、恥ずかしそうなミモザをチラリと見てから尋ねる。

「アキちゃんは、ソロ活動には興味ないの?」

「大地、人の事情に口を出すな」

すかさず嗜める空に、アキはパタパタ手を振って大丈夫だと伝えながら答えた。

「うーん。私ってミモザがいないと全然ダメなんですよねー」

「えっ、そうかな?」

不思議そうに首を傾げる空の隣で、大地は『確かに』という顔をしている。

「そうなんですよー。ミモザが隣にいてくれるから、トークも歌も安心して楽しくできるんです」

「アキちゃん……」

ミモザがうるりと瞳を滲ませて、アキを見つめる。

「でしょ? いつもありがと、ミモザ」

「わ、私こそだよぅっ」

ぎゅっとハグする二人に、大地が面白くなさそうな顔で唇を尖らせた。

「ちぇ。アキちゃんがソロ活動してくれれば、俺がミモザちゃんを独り占めできると思ったのになぁ」

大地の言葉に、ミモザが小さく息を呑んで恥ずかしそうに口元を覆う。

「大地さんには悪いんですが、私がミモザ離れできるようになるまで、もうちょっと待っててくださいね」と、アキも嬉しそうなミモザの横顔を見ながら苦笑する。

「そしたら、俺とミモザちゃんで組んで朗読動画とかやるのもいいよなぁ」

大地が「いつまでも待ってるから」と言い添えると、ミモザの頬がさらに赤くなる。


「……でも、そうなったら、僕はちょっと……寂しいな」

ぽつり。と零されたのは、空の寂しげな声だった。

「「「!?」」」

三人の視線が空に集まる。

「空さんには私がついてますよっ!!」

「わ、私もついてます!」

「俺が空のこと放ったらかしにするわけないだろ!?」


三人の勢いに、黒ぶち眼鏡の奥で黒目がちな瞳が瞬く。

空はふわりと柔らかく微笑んだ。


「ふふっ。ありがとう。……とっても嬉しいよ」


「ゔっ! 至近距離の照れイケボ!!」

「あっ、アキちゃんしっかりして!」

「致死量のイケボだったか……」

顔面を覆ってアキがその場に崩れる。

コンビニの窓の外、大スクリーンには大地の描いたイラストが映し出され、アキとミモザの歌声が空の音楽に乗って流れていた。



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