4話 校内放送と作詞(3/9)
空が部屋に戻ると、スマホにRINEの通知があった。
『空さん聞いてくださいっ、今日私の学校でお昼の放送に空さんと私達の曲がかかったんですよっっ』
空は返事に迷う。スマホを握ったまま、うろうろと部屋の中を三往復ほどしてから、ようやく画面に触れた。
『僕の学校でもかかったよ、お昼の最後の時間に』
これで、彼女が気付いてくれれば……。
空は、自分だけが一方的に相手の正体を知っている事を心苦しく思っていた。
『そうなんですかっ!? わあ。色んなところで聞いてもらえてるんですねっ。嬉しいなぁっ♪』
空はスマホ画面をキョトンと見つめる。
アキは全く訝しがることなく、沢山聞いてもらえたと喜んでいた。
「……アキさんらしいなぁ……」
空は苦笑を浮かべながら、少し前から考えていた新曲の提案をする。
『もしよければ、僕達とA4U(エースフォーユー)でもう一曲コラボしてみない?』
『えっいいんですか!? やります!』
あまりに早い返事に瞬くと、もうひとつメッセージが届く。
『じゃなくて、ごめんなさい、ミモザと相談しますっ』
『ゆっくり考えてくれたらいいよ。今度の曲は、もしよければアキさんに歌詞を書いてみてほしいと思ってて……。アキさんの言葉には力があるから』
『歌詞ですか!? 私作文とかあんまり……得意じゃ無いんですが……』
『もしよければ、だから。無理そうなら断ってくれたらいいし、やってみてダメならそう言ってくれていいよ。引き受けてもらえるなら、音楽は歌詞に合わせて作りたいと思ってる』
『ありがとうございますっ。ミモザと相談してまたお返事しますねっ!』
ぐっと力こぶのムキムキスタンプが届いて、彼女の溢れるやる気に苦笑する。
よかった。彼女が僕達とのコラボに前向きでいてくれて……。
綻んだ口元が、次のメッセージを目にして固まる。
『そういえば今日学校で、知らない上級生に「A4Uに似てる」って、何組だって聞かれて、びっくりして逃げてきちゃいました』
「それは……」
浮かれた気分が一瞬で凍りつく。
今日、自分もいた校内で、彼女が怖い目に遭っていたなんて。
『それは怖かったね。大丈夫だった?』
手持ちのスタンプから一番心配そうなスタンプを選んで送信する。
自分の指先は震えていた。
『大丈夫ですっ』
と元気なアキの言葉も、彼女の性格を考えると素直には受け取りきれない。
自分の曲で、少しでも彼女達の声を皆に知ってほしいと思っていた。
けれど、そのせいで彼女達は不要な誹謗中傷を受けることになってしまった。
そればかりか、今度は彼女達の私生活まで危なくなっているなんて……。
……これ以上、彼女達とコラボをするのはやめた方がいいのだろうか。
それとも、今すぐ音楽動画も削除するべきか……?
「どうしよう大……」
思わず相談しそうになってしまった親友の姿は部屋にはなかった。
自分が無茶な納期を要求したために、彼はあの動画を完成させた直後に風邪をひいて、もう三日学校を休んでいる。
その前から挨拶活動を休ませていたので、そろそろ正門では彼の長い不在に心配の声が聞かれ始めていた。
空は冷たく震える指先で大地とのトーク画面を開く。
『大地、熱下がった?』
メッセージを送り終わった画面をじっと見つめたまま、どのくらいそうしていただろうか。頭の中は自分の犯してしまった罪でいっぱいだった。
彼女達は、学校へ来るのが不安ではないだろうか。
大地は、無理をさせた僕を恨んでいないだろうか。
全ては自分が引き起こしたことで、全てにおいて自分が悪いのは間違いない。
『おー。やっと微熱んなったわ』
いつもと変わらない調子の言葉に、ホッとする気持ちと申し訳なさが混ざる。
『無理させてごめん。今日も朝から「新堂君どうしたんですか」って何度も聞かれた』
『おおっ。そーだろーそーだろー。朝から俺の顔を見たい子がいっぱいいるんだな? 早く元気になんなきゃなぁ』
デレデレとした大地の顔が思い浮かぶ。が、その内容からまだ明日明後日に登校するのは難しいようだ。
『本当にごめん。明日お見舞い持って行くよ』
『いーっていーって、親がお返し気にするだろーし、治ったらまた入り浸ってやるから』
『ありがとう』
『……なんかあったのか?』
空は息を呑む。
離れていても気付いてくれる親友に縋りつきたい気持ちと、まだ微熱の彼を悩ませたくない思いの間で迷っているうちに、両手で握りしめていたスマホが震え出す。
画面には、大地の名前とビデオ通話の着信を知らせる表示があった。
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