4話 校内放送と作詞(1/9)

大地の睡眠時間を犠牲に、映像付き音楽動画は二週間の予定を大幅に短縮してわずか八日間で完成した。

そんな短時間で作ったとは思えない驚きの高クオリティ動画はさらなるリスナーを呼び、再生回数は日々増え続けていた。


アキ達の通う中学では昼休みに校内放送で音楽がかかる。

選曲は放送部員によるものだったが、生徒なら誰でも放送室前に設置されたリクエストボックスにリクエストを入れることができた。


今現在お昼の放送を行なっている真っ最中の放送室。

室内は壁と二重ガラスでミキサールームと録音室に分かれていて、ミキサールームには三人の生徒がいた。

椅子に座って談笑しながらお弁当を食べている女子生徒と男子生徒。

大きなミキサーのボリューム調節バーに手を添える男子生徒は、細いシルバーフレームのメガネを片手で上げると不敵な笑みを浮かべた。

「クッ、ククッ、クックック……」

前髪を長めの七三に分けた男子生徒の喉奥から溢れる笑いに、お弁当を食べていた生徒二人が顔を上げる。

「部長ー、ご機嫌っすねー」

部長と呼ばれた男子生徒はギラリと眼鏡を怪しく反射させると、終わりかけていた音楽の音量バーと今からかける音楽のバーをゆっくり入れ替える。

「今から我のイチオシ曲を全校生徒に聞かせてやる…… ククク……心して聞け。そしてこの歌声に涙せよ」

「わぁ、部長のイチオシ久しぶりですね、私今まで部長のイチオシ曲には全部ハマってるんですよねー」

「あーわかる。部長って、言動はアレだけど選曲は間違いないよなー」

イントロの音量を調整し終わると、部長と呼ばれた男は踵を返した。

「諸君も心して聞くがいい。では泉、後は任せるぞ」

「了解ーっす。お疲れ様っしたー」

「あれ、部長もう戻られるんですか?」

「ああ。三門も授業に遅れぬよう留意しろ」

「あ、はい。部長もお疲れ様でした……」

ガチャ。と閉じられたドアを見ながら三門と呼ばれた女子生徒が呟く。

「珍しいですね、いつも最後まで付き添う人が」

その言葉に、泉と呼ばれた男子生徒が苦笑を浮かべる。

「三門さんは部長のイチオシ放送初めてだった? 部長はイチオシ曲をかけると、必ず生徒達の反応を見に教室を回るんだよなぁ」

「うーわー、マメですねー。……部長らしい……」


***


アキとミモザは中庭でお弁当を広げていた。

秋空の下でお弁当にしようと言い出したのはアキで、目立ちたくないからと端の方のベンチを選んだのはミモザだった。

中庭用のスピーカーは中庭の端。つまり二人の目の前にあった。

「「えっ」」

気付いたのは同時だった。イントロの五音目には二人は視線を合わせていた。

「これってまさか……」

「私たちの曲!?」

不安げなミモザに対して、アキは嬉しくてたまらない顔をしている。

「アキちゃんっ、声大きいっ」

ミモザがシーっとジェスチャーをしながら立ち上がったアキを再度座らせる。

「え、どうかな、皆どんな反応してる?」

なんとか座ったものの、アキはそわそわと辺りを見回している。

「そんな皆が皆一生懸命曲聴いたりしてないよぅ。ご飯食べる時間なんだから」

言われてようやくアキも「そっか、そうだよね」と少しだけ落ち着きを取り戻した。

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