第113話

 ドリーへのお礼を色々と考えた結果、前にドリーが一緒にダンジョン探索をしたいと言っていた事を思い出した煉。誘ってみると二つ返事で了承されたので、一緒に探索する事になった。


「前に言ったこと覚えててくれて嬉しいの」

「ドリーには開発のためとはいえ『慈悲』を何度も使用してもらったからな。これくらいやらないとな」


 煉が探索に選んだのは、植物系のダンジョンであった。植物系のダンジョンは擬態するモンスターや隠密に優れたモンスターが多く出現するが、『魔力感知』に優れた煉と植物と意志疎通が出来るドリーにとってこのダンジョンはイージーであった。

 攻略というよりも散歩という表現が似合う探索となる。


「そう言えばこの前、来栖さんのところにユラさんが来てたの」

「ユラさん? 原初スキルの関係?」

「そうなの」

「じゃあスキルオーブの回収は順調なんだな」

「それが、来栖さんが言うには原初スキルをスキルオーブのままずっと放置しておけないらしいの。一定期間が過ぎると崩れちゃうみたいなの」

「それはヤバいな。後で連絡してみるか」


 もしオーブのまま保存しておく事が出来ないのであれば、原初スキルの所有者が揃うのを止める手段はない。モンスターの原初スキル持ちを所有者にカウントするのであれば、全部の原初スキル持ちが揃うのも時間の問題である。


 原初スキル持ちが増えるほど、世界の非現実化が進む。モンスターがより強化され、多くのダンジョンが生まれる。ダンジョン災害も多くなるだろう。何の目的で主人マスターらがそれを目論んでいるか分からないが、その日が来ることは避けられないだろう。


「逆にスキルオーブを崩壊させてみるのは...流石に勿体無いか。武器にするなら鈴さんにでも持たせれば最強なんだが」

「煉は要らないの?」

「武器ならコイツらで十分満足してるしな。って嬉しいからって魔力を喰うな」

「直球の愛情表現なの」


 『グラル』は確実に煉の言葉を理解しているので、嬉しければ魔力を喰らい、悲しければ魔力を喰らう。 

 その喰いっぷりで機嫌が分かるあたり、煉と『グラル』の相性は良いのだろう。


「...それか『欲望覚醒』を使ってグラルにスキルオーブを喰わせて見るのはアリだな」

「できるの?」

「原初スキル所有者を喰えそうな感じはあった。スキルそのものはどうなるか分からないが」

「頑張れなの...あ、モンスターです『樹縛』」

「流石、早いな」

「えへへなの」


 今後の展望を話しつつも、隠れたモンスターを見逃さない2人であった。


―――――――――――――――


 ユラが来栖の研究所でのんびりしていると、家主である来栖が電話を終えて戻ってくる。


「ごめーん、お待たせー」

「いえいえ、若い男からの電話に年甲斐もなくはしゃぐのは仕方ありません。もっとゆっくりでも良かったですよ?」

「冗談だよな?」

「もちろん、昔の来栖さんが出てきてますよ?」

「えー、どこがー?」


 来栖の口調がガラリと変わる。


「切り替えの早さはお代わりないようで。それで煉くんからの用件は何でしたか?」

「『暴食』と『色欲』の複合技でースキルオーブが食べられないかって提案ー」

「なるほど。流石煉くん。凄いことを考えますね」

「だねー。一度やってもらってー無理そうなら鈴の装備につかうよー」

「よろしくお願いします」

「私の仕事だよーこれはー」


 『ミナミの惨劇』後の憔悴した来栖はいないが『原初スキル』に複雑な思いは未だにある。その思いはユラも抱いている。


「『憤怒』は見つかりませんでしたが、リポップするのもそう遠くないと思われます」

「変革のせいー?」

「はい。あの頃、あれだけ探しても発見できなかった『原初スキル』が1ヶ月ほどで手に入った。かなり非現実化は進行しています」

「そっかー」

「もし手に入ったら使用しますか?」

「アイツと同じスキル選んだらー馬鹿にされそうだしなー」

「それもそうですね」


 その数日後2人の元に『憤怒』を使用した状態に酷似したボスモンスターの情報が届けられることになる。


 


 


 

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