第107話
煉の元に来栖から、幾つかの試作品が届けられる。前々から来栖とドリーで開発をしていた原初スキルを付与したアイテム、その試作品である。
「『慈悲』を付与してるだけあって回復系の効果が多いが...難しいな。ある程度大量に生産するなら性能を抑えないといけないのがな」
このアイテムを開発する目的は、多少なりとも敵側の原初スキルの耐性を獲得することである。そのためには広く普及させる必要があるが、原初スキル持ちという極少数の対策アイテムを普及させることは、アイテム自体に付加価値がなければかなり難しいだろう。
しかし付加価値を付けるため性能を高めれば生産性が損なわれる。そのバランスが難しいのだ。
「俺が宣伝すれば、主人たちが販売を妨害する口実を与えることになるしな」
煉がチャンネルを使って宣伝するという手法も考えたが、出来ればこのアイテムの主の効果が原初スキル対策であると言うことは、全面に押し出さない方が良いと煉たちは考えていた。前々から挑発行為をしている煉への妨害という口実でこのアイテムの販売を妨害されかねないからだ。
一般的なアイテムであり、おまけで原初スキル対策にもなるという塩梅であれば、妨害の可能性は少ないだろうと考えていた。
「装備してると回復効果があるこれが一番...うん? これ、使い方によっては」
とある試作品を手に取った煉は、面白そうな使用方法を思い付く。もし上手く行けば色々な問題が解決しそうである。
「となると何人かに試して貰いたいが...まあ氷華たちに頼むか」
口が固く信頼できる氷華たちにお願いしようと考えた煉は早速、連絡を取るのだった。
―――――――――――――――
その男はいつもだらけている。それが自分の本分であるためである。それを許容される環境に男は常に属していた。しかし最近、それが崩れてきているのを感じていた。
「『スロウ』...
「そーう? 『怠惰』こそー、僕のー在るべき姿だよー」
「だとしてもです。主人が困っているのですから我々で――」
『スロウ』は昔から主人、『ロイヤル』と共にいた。確かに気難しい『ロイヤル』はだらけきった態度に小言を言うこともあった。しかし主人はそれを個性として許容してくれていた。
しかし最近の主人はそのような余裕は無くなっていた。煉という相手からの明確な挑発によって常に苛立っているように感じる。
「僕がー言うことでもーないけど、行動すればー良いと思うよ?」
「神埼煉、彼に挑発された我々が無差別に行動に移せば舐められます。貴方も分かっているでしょう?」
「それは『プラド』のー考えだろ? 前ならー違ったとー思うよ?」
「何が言いたいのですか?」
「『傲慢』にー侵食されてるだろー?」
「そんなことっ!」
『スロウ』は元々、怠惰な性質を有していたし、『ロイヤル』も昔から主人への忠義は人一倍であった。しかし主人は違う。
原初スキルのデメリット、『傲慢』のデメリットを過去の主人は口にはしなかったが、他の原初スキルから推察するに精神汚染系だろう
「あの人は元々ー謙虚な人だった。君の方がー分かってるでしょ?」
「...今の話は聞かなかった事にします。命令が下るまで待機していてください」
「...りょーかい」
去っていく『ロイヤル』を見つめる『スロウ』
昔の主人なら、挑発してくる相手を笑っただろう。自分なんかを挑発してどうすると。今の主人は自分を挑発するなんてと怒る。どちらが良いか『スロウ』は判断しない。しかしどちらが好きかと言えば明らかに前者であった。
「『怠惰』な僕をー動かす力があったんだけどなー」
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