第100話

 テロの影響で様々な所に影響が生じたが、その中でも一番影響が大きかったのが各国の探索者協会であった。テロを阻止できなかったことも大きくバッシングを受けたが、それ以上にダンジョンアイテムの開発チームの一員として反探索者の過激派集団『天廻』のメンバーを招待してしまっていた事が大きかった。

 結果として死者はいなかったと言え、ダンジョンの変革が進行してる現在、重要な役割を果たす探索者たちの最高峰を丸ごと失うような失態。責任者の更迭レベルで済む話ではなかった。しかしその中でも日本の探索者協会はまだ処分が少ない方であったようだ。


 そんな話を煉は相模ダンジョンの協会支部長である、小室から聞いていた。


「テロを防いだ英雄2人がどちらも日本人であったというのが大きいでしょう。特に神埼さんは日本の代表として行ってくださいましたので、そこら辺が日本へのバッシングが弱い原因でしょう」

「...そうですか。なら小室さんと協会長の功績でしょう。貴方たちが用意してくれた許可証に釣られて参加したカンファレンスですので」

「そんなことはございません。神埼さんたちが居てくれたからこそですので。今回の神埼さんの活躍もあり、反探索者派閥の連中の多くを追い出せたと協会長も喜んでました」


 これだけの事件が起きている現状、日本の探索者協会も責任を取らなければならなかったらしいが、今までの件で発言力を増していた協会長以下、探索者優遇を訴えていた派閥により、旧体制時代に探索者を冷遇し、今もなお探索者からの搾取を企てていたような連中に責任を取らせることに成功したのだ。


「それで、それをわざわざ私に言う理由は何ですか? ユラさんを日本の探索者協会所属というのは無理があるから、私ならって考えですか?」


 日本の探索者協会に嫌気がさして日本を飛び出し世界中を巡っている鈴とユラ。彼女たちを日本の代表だと考えているのは、探索者事情に疎い一般人と建前が上手いマスコミくらいだろう。


「...それは、そういう声が協会内から出ていないと言えば嘘になります。現状、貴方をスカウトしようとする国、勢力は無数にあります。現に神埼さんの元にそういった連絡は来ているでしょう?」

「はぁ」


 前に優弥が煉チャンネルのSNSには1日に何百を越えるスカウトメールが届けられているということを言っていたと思い出す煉。


「しかし我々は貴方に制限を掛けるような真似はしたくない。貴方には自由に探索者活動を続けていただきたいのです。それこそ貴方が最もパフォーマンスを発揮できる環境だと考えています」

「なら今回の話は?」

「各国の探索者協会や政府に掛け合いました。その結果とある許可がおりましたので、それの報告と許可証を改めてお渡ししようと思いまして」

「許可?」

「全ダンジョンの探索許可を内包したライセンスです。本日より神埼さんは全世界のダンジョンを探索許可されたことになります」

「それは...すごいですね」


 一般に公開されていないダンジョンも多い現状で、それらを全て探索できるライセンス。その価値は煉のようなダンジョン好きには計り知れないモノである。しかしそれを取得する難易度は煉が想像するよりも高いだろう。好意で貰えるようなモノではない。


「これを渡すことで、各国はダンジョン災害が起こった場合、神埼さんに助けに来て欲しいと思っているでしょう。しかし気にしないでください」

「気にしない?」

「先ほども言いましたが、我々は貴方が自由に探索活動をすることを望んでいます。それが最終的にライセンスを渡す目的にもなると信じていますので」

 

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