第99話

 煉チャンネル2度目の生配信は煉の想像以上の反響があった。『アトラ』はダンジョン発生以来ダントツの探索者数を記録しており、連日特集が組まれる事態となっていた。 

 それに飛び火した形で『神秘の森』にも探索者が殺到しているらしい。何でも煉が『アトラ』でウィンディーネを見たときの妖精種を知っているような素振りを見せたことと、『神秘の森』浄化生配信が関連付けられた結果なのだと言う。


「『アトラ』はそこそこ難易度高いから、2人の住居まで来る奴も少ないだろ。『神秘の森』は最近ドリーは俺の家か来栖さんの家に入り浸ってるから問題ない」

「...主人が『アトラ』に殴り込みに行くって可能性はないの?」

「主人の思考を完璧に把握してるわけじゃないから分からんが、今、『アトラ』に行くのはウィンディーネに便乗する行為だろ。『天廻』みたいな連中使って邪魔するなら兎も角、プライド高そうな主人は便乗を良しとはしないと思う」

「なるほど」


 今回の煉の生配信の主目的は主人たちの対策を練っている来栖、ドリー及びユラ、鈴の邪魔をさせないためヘイトを煉自身に集めることにあった。そして主人が煉の思っているような性格であれば今回の生配信により、テロの中で一番対処が難しい無差別テロも難しくなっただろう。

 『天廻』のような連中を使った人によるテロ、そして主人はダンジョンのモンスターたちを召還できるので、そういったモンスターを使ったテロ。これをやられると対応が後手後手となり被害が拡大する。しかし


「これ以上、俺が目立つ場を与えたくないなら、そういった無差別テロは起こせない。テロを起こした奴も目立つがそれ以上にテロを解決した英雄の方が目立つからな」

「それはね」

「主人たちは勿論、一般視聴者の中にも俺が主人たちを挑発してると思ってる人はいるだろ。これで他の場所に仕掛ければ世間は主人が俺を避けたと見る。それを許容する性格とは思えん。まあ今後の動き次第だが」

「かなり主人たちの行動を制限したように思えるね。...それにしても煉がこんなにダンジョン以外のことに構うなんて珍しいよね」


 優弥の知る煉は、積極的に社会貢献するようなタイプではない。それこそダンジョンが絡めば人助けもするし、結果的に多大な社会貢献をしているように見える時はある。しかし今回はそういった案件ではない。直接的にダンジョンが関係している訳ではない。それこそ探索者によるテロなどは年に数件は発生している。今回はそのテロの規模が大きいため大々的に取り上げられたが、煉は被害の規模によって動く動かないを決めるような人物ではない。

 優弥に疑問を投げ掛けられた煉は少し考えた後、返答する。


「もう既に何度か関わってるしな。それに来栖さんたちは親しい人を、ドリーは故郷を荒らされてる。世話になってる人たちの仇を放って趣味に没頭するのは...まあなんだ、マナーに反するだろ」

「マナーって...照れ隠しでももう少しあるだろ」

「ここ最近、動画ネタばかり探して思考が汚染されたわ」

「物騒なこと言わないでよ。煉が優しいってだけの話でしょ」


 煉は自身を趣味第一の自分勝手な人間だと認識している。しかし煉の周りの人みんなが知っている煉は、自分よりも他人を思いやれる善人なのである。





☆☆☆☆☆


100話目です。

こういうザッ記念ってときに特別なことをすると大抵スベるので特別な話はやりません。

思い付かなかったんじゃないですよ。

 

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