第67話 新支部長

 いつも通り煉が相模ダンジョンのダンジョンボスを倒し終え、報告に行くと支部長室に行って欲しいと摩耶に頼まれる。


「氷華が言ってましたが国際カンファレンスの話ですか?」

「私も詳細は知らないけどね」

「そういえばですけど、最近ここの支部長変わってましたよね」

「ああ…そうね」

「何かあったんですか?」

「まあ色々と」

「そうなんですね。新しい支部長とはまだ話したこと無いてすけどどんな方なんですか?」

「話してみれば分かると思うけど、煉くんとは話が合うと思うよ」

「へー。まあじゃあ行ってきます」


 煉は支部長室に入室すると、前までのオドオドしていた印象の強い支部長より、かなり年若い男性が支部長席に座っていた。


「待っていました神埼煉さん。どうぞそちらにお掛けになってください」

「失礼します」

「本当はもっと早く神埼さんとお話したいなって思っていたのですが、思ったよりも仕事が多くて。私、相模支部の支部長、小室と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそお願いします」


 小室が煉を見る目は、これまでのどの大人の目とも違った。強いて言うならばファンだと名乗る者たちが自分を見てくる目に似ていた。

 また煉は、小室が纏う魔力からとあることを確信する。


「支部長は元探索者か何かですか?」

「分かりますか?」

「魔力の質的に少なくともかなりの年数ダンジョンに通ってたのかなと」

「流石、神埼さんですね。実は私、かなりのダンジョンオタクでして、神埼さんみたく自分でダンジョンを回りたいって昔、探索者活動をしてたんですよ。残念ながら才能がなくて続けられなかったですけど、どうにかダンジョンに関わりたくて協会に」

「そうなんですね。どんなダンジョンに?」

「私は自然系ダンジョンが好きだったので、それこそこの前神埼さんが浄化した神秘の森が汚染される前にも行ってますし、後は――」


 有名なダンジョンから煉でも知らないようなマイナーなダンジョンまで、各地のダンジョンを探索していることが分かった。


「現在、日本で唯一と言ってもよい成長し続けている相模ダンジョンの支部長にどうしてもなりたいと思いましてね。ちょうど席が空いたので色々コネを使って獲得したんですよ」

「そうなんですね」

「神埼さんに色々お話を聞いてみたいなーとも思ってして。ああ、公私混同甚だしいのでオフレコでお願いします」

「はい」


 と小室は気軽に言うが、成長型ダンジョンの踏破が年に1度でもあれば支部にとっての評価としては最高レベルとなる。それを週1ペースで成される支部の長の席は、当然奪い合いとなる。それを獲得できるという点で彼の優秀さが窺える。

 

「さて、もっともっとダンジョン話に華を咲かせたいのは山々ですが、本題に入らせていただきます」

「お願いします」

「国際カンファレンス、神埼さんはご存知でしょうか?」

「はい。友人から聞きました。あまり興味の無い話なので詳細はよく覚えてませんが」

「そうですよね…ただ協議するだけですからね…そこでですね」


 煉がそう言うことは予想していた小室は幾つかの書類を煉の前に提示する。


「これとこれ、あとこのダンジョンは主要国の政府直轄のダンジョンでして。ダンジョンの詳細は書面で確認していただきたいですが、かなり珍しいダンジョンの数々となっております。今回、国際カンファレンスに参加してくださる場合は、これらの探索許可証及びその他の優遇券を発行されるよう向こうの協会に掛け合いまして」

「小室さんが?」


 政府直轄のダンジョンは、一般の探索者には探索が許可されていないモノが多い。そんな貴重な探索許可証を何枚も、しかもどのダンジョンも煉の興味を引くタイプの珍しいダンジョンであった。


「主に私と協会長でですね。探索者活動で世界中を飛び回ってた関係上顔は広いので」

「この探索許可証は」

「取り敢えずは永久にとのことです。協会や政府が変わると許可も無効になる場合がありますが」

「…何をすればいいんですか?」

「前夜祭などのカンファレンス以外の催しもありますが、神埼さんの拘束時間は出来る限りの短時間になるよう調整します。…あとこのダンジョンはカンファレンスの会場のすぐ近くですから参加するついでに探索も可能かと」

「分かりました」


 小室の掌で踊らされた煉だったが、気分は晴れやかなのであった。

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