第66話 煉の知らない世界
電話で言っていた通り、氷華が神埼家に遊びに来た。久しぶりの来訪に特に茜は喜んだ。
「もうね。いつ来てくれてもいいからね氷華ちゃん」
「ありがとうございます茜さん」
「花織ともよく話してるのよ。煉も氷華ちゃんもお互いの家に来てくれなくて寂しいって」
「いつも母と仲良くしていただきありがとうございます」
「あらあら。氷華ちゃんも朱里と仲良くしてくれてありがとうね。できれば煉とも、もっと仲良くしてくれると嬉しいわ」
「仲は悪くないですよ。ただお互い忙しくて最近はこれてなかったですけど」
「あら! そうなの」
挨拶を終え家に入ってきた氷華。氷華の来訪を一番楽しみにしていた茜が長時間拘束していたが、氷華は氷華で嬉しそうに対応していた。朱里も久しぶりに遊びに来た氷華に嬉しげである。
このように氷華は神埼家から大歓迎であるため、煉がいなくても問題ないだろうと、朝早くにダンジョンへ向かおうとしていたところ、珍しく茜に止められた。あの自主性を重んじる茜が一言
「止めなさい」
と言ったのだ。流石の煉も在宅を選択するしかなかった。
「おい、朱里」
「なーに、おにい」
「さっきからあの2人は何してるんだ?」
「あれ? あれは目で会話してるんだよ」
「目で会話? 何かのスキルか?」
「スキルと言えなくもない」
「そうか?」
そんな煉たちの前で繰り広げられているのは、氷華とドリーの睨み合いであった。ドリーに会いたがっていた氷華に紹介したところ、何故かこんな風になってしまったのであった。
「今日はこのくらいにしておきましょう」
「そうなの」
「終わったみたいだよ」
「何が始まって終わったのかさっぱりだがな」
世の中にはまだまだ煉の理解の範疇に無いものが多いらしい。
ただ最初こそ心配したが特に氷華とドリーに険悪な感じもなく、仲良く話していた。
「こんな感じなの」
「魔力を通じて植物と会話してるのね。私たちなら声を媒介にした方が届けやすいかしら?」
「氷華ねえ、{こんな感じ}」
「どちらかと言えば【こんな感じよ】」
「あ、『宝樹』が少し動いた! 凄い氷華ねえ!」
煉の影響なのか氷華の影響なのか、朱里も探索者に興味が出てきたようで、最近はドリーからも色々と聞いているらしい。とはいえ今のところダンジョンに潜ったりする予定はないらしい。折角魔法やスキルがあるなら使いたいくらいの感覚なのだろう。
「でも朱里ちゃんも才能あるわ。もしダンジョンに入りたくなったらいつでも言いなさい」
「私も手伝うの!」
「ありがとうございます氷華ねえ、ドリーも」
素直にお礼を言う朱里。煉がダンジョンに誘ったとき
「おにいに連れてかれると、限界ギリギリのモンスターと体力の限界まで連戦させられるみたいなスパルタになりそうだからやだ」
と冷たく断られたときとは偉い違いである。
とはいえ朱里がダンジョンに興味を持つのは良い傾向である。ここで口を出せば、また話がややこしくなるのも経験上分かっているので、3人をただただ見守る事にした煉であった
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