第58話 樹妖精

 原初スキルを所有している少女と出会った煉。少女も煉に原初スキルが効かなかったことに気づいていた。最後の少女の表情は煉に関心を寄せている様子であった。


「気になる。そもそもあの子…いや確証はないか」


 煉もドリーと呼ばれた少女に色々と聞きたいと思った。しかし『理想郷計画』の根幹とも呼べる少女と話せる機会は無いだろう。と思っていた。


 次の日、煉が珍しく街を散策していると、昨日の少女が偶然にも1人で街中を歩いているのを見掛ける。『理想郷計画』の人たちとはぐれたのか、周囲をキョロキョロと見渡していた。


「どうした?」

[あなた…煉さんですか?]

「すまない。言葉、わからない」


 声を掛けてみた煉だったが、外国語で話す少女に困惑してしまう。すると


[伝わらない?]

「うーん、どうしたもんか…」

「これなら伝わる?」

「うん? 日本語も話せるのか?」

「日本語? これ日本語って言葉なんだ。あの子から教えて貰ったけどどんな言葉なのかは分からないって」

「あの子ってそこには植物しか、…やっぱり『樹妖精ドライアド』なのか」

「ドライアド? 私はドリーです」

「ドリーか。君は植物と会話できるんだな」

「はい。あの子たちは私たちの子供も同然だから」

「そうか」


 何となく人ではない気はしていたが、よりによって伝説的な種族、ドライアドだとは予想もしていなかった。

 豊作と繁栄の妖精であり、彼女たちが1人でも居れば、砂漠であろうとすぐに緑が生い茂る空間へと変わると言われている。種族的に伝説の存在でさらに原初スキル持ち。凄まじく稀少な存在であることが分かる。


「昨日、ドリーが俺に掛けてくれようとしたスキル。それと似たスキルがこの中にも入ってる」

「その指輪に? 『慈悲』と似たスキルが?」

「そうだ。だから昨日はスキル同士が反発しちゃったんだ。そのスキルでドリーは俺に何をしてくれようとしたの?」

「うんとね。『慈悲』は私の嬉しいを相手に上げてね、相手の悲しいを私が貰うスキルなの」

「嬉しいを与え悲しいを貰うスキル…か、凄いな」

「そう? 前はけっそんを治したらありがとうっていっぱい言われたの」

「けっそん? 欠損か。…ドリーは大丈夫だったのか?」

「大丈夫じゃないけど大丈夫なの。森のためだから」


 ドリーの何かを堪えるような様子に煉の眼光は鋭くなる。

 四肢欠損を直せるほどのスキル。何が代償なのかは分からないがそれでも破格のスキルと言える。ドリーの説明通りの効果ならば、欠点は所有者に不利益しかない点くらいだ。

 となればそれほどのスキルを持つ伝説的種族の少女がなぜ『理想郷計画』に利用されているのだろうか。


「皆?」

「うん。私の故郷をあの人たちが再生してくれるんだって」

「再生?」

「うん。だから…大丈夫なの」

「そうか…がんばれ」


 ドリーの目には決意が宿っていた。煉が何を言っても意味は無いだろう。その後ドリーの故郷の話等を聞いていたところ、煉の『魔力感知』に昨日会った京一郎が引っ掛かった。


「この道をまっすぐ行けば『理想郷計画』の人と合流できる」

「ほんと? ありがとう」

「じゃあな」

「うん…また会える?」

「明言はしにくいが…煉チャンネルってので配信活動とかしてるから、もし何かあればそこに連絡しろ」

「わかった。ばいはぃ!」


 去っていくドリーを見送り終わった煉は、スマホで記憶の片隅にあった、とある記事を検索するのだった。


【Mysterious forest collapse. The association has given up/神秘の森崩壊。攻略を諦めた協会】






 

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