第59話 神秘の森

【Mysterious forest collapse. The association has given up/神秘の森崩壊。攻略を諦めた協会】


 この記事に登場する神秘の森は、世界的にも珍しいフィールド型のダンジョンであった。下に降りていく階層型のダンジョンと異なり、階層が1層しかなく特定の入口などもない。そのフィールドにモンスターが出現し、その場所にモンスターが留まり出て来ないため便宜上ダンジョンという風に定められていた。

 そんなフィールド型ダンジョンである神秘の森では昔から妖精の目撃情報が相次いでいた。最初は信じられていなかったが、とある探索者がドライアドに遭遇し、アイテムを持って帰ってきた。そのアイテム『宝樹の苗木』を植えた地域はドライアドの加護を受け、豊作と繁栄が約束された土地となった。

 この事から神秘の森のドライアドは伝説となっていた。


 そんな神秘の森に異変が生じたのは数年前のこと。神秘の森はダンジョン的には休眠型であったため、とある探索者パーティーが、ボスモンスターを倒してからゆっくりドライアドを探そうとした事が原因であった。

 休眠が解けたとき、おそらくイレギュラーが発生したのか、ボスモンスターが変化してしまった。そのモンスターの名は『毒龍ヒュドラ』このモンスターの影響はダンジョン全体に広がってしまった。神秘的であった森は、毒龍の影響で汚染され既存のモンスターたちですら死滅する死の森へと変貌してしまったのだ。毒龍を倒そうにもダンジョン内に簡単には入れない状況。入れたとして毒龍がどれほど強いか分からない状況であるため、攻略を実質放棄しているような状況なのであった。


 煉も昔から気になっていたダンジョンの1つであった。今ならグラルとヴィーナスがあるため、毒に汚染された神秘の森を攻略することも不可能では無いだろう。


「毒龍を倒せば…再生するのか?」

「何の話?」

「優弥か。これだ」

「神秘の森? ああ、あの」


 ただ神秘の森の場所は海外のため攻略するとなれば、色々な手続きを踏む必要がある。本来ならある筈なのだが、


「ここ攻略したいなら交渉してみる? 確か神秘の森ってオランダだよね。オランダの探索者協会からもメッセージが来てたから…出来るかもしれないよ」

「そうか? なら頼む。ちょっと確認したいこともある」


 煉レベルとなるとそこら辺をスルーできるコネを持っているのであった。こういう時は配信をしていてよかったと煉は思う。


「そういえば話は変わるが、生配信? ってどうやってやるんだ?」

「生配信? 煉がやるの?」

「やるかどうかは決まってない。色々と確認した後、どうするか決める予定」

「そうなんだ。まあやり方は簡単だよ――」


 本当に神秘の森の攻略が放棄されているならば、現在の神秘の森の状況と煉の攻略の結果。これらをリアルタイムで伝えられる方法が生配信だと煉は考えたのである。


「でもさ、この頃、配信に積極的だよね。前よりはだけど」

「まあ、考え方が少し変わったのは確かだ」


 前まで煉は探索活動と配信活動を別々に考えていた。しかし最近、グラルやヴィーナスを得たため、配信も装備枠として考えると納得できる部分があったのだ。

 情報というバフを他の探索者に与え、今回のように普通の探索者が気軽に攻略できないダンジョンの攻略について交渉できるコネを獲得し、探索活動がスムーズになる。デメリットもあるがグラルやヴィーナスも同様だと考えれば、配信も使い方次第と言える。


「積極的にやるつもりがないのは変わらんがな」

「それでも、嬉しいよ」


 再生数や評価を得るための配信をやるつもりは毛頭無いにしても、これは煉にとって大きな変化であるといえるのだった。

 

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