第47話 虎子を得ず
煉が『蟲の女王』討伐に参加しないことは、すぐに世間に拡散された。ネットでは煉への誹謗中傷が散見され、優弥が運営しているSNS は誹謗中傷に地元の方々からの助けを求める声が合わさって絶賛炎上中であった。
ダンジョンの攻略関連てしかネットを見ず、SNS も特にやらない煉にとっては、ほぼノーダメージの状況。煉に対して直接非難してくる者もいないので特に変わらない生活を過ごしていた。
ただ誹謗中傷の波は、探索者配信をしている他の探索者にも波及していった。
「そうなんだ。氷華のところにも来てるんだ」
「ええ、私たちのところにも色々と言ってくる人たちはいるわね」
「でも行かないんでしょ?」
「そうね。今の私たちじゃ力不足よ」
「そんなこともないと思うけどな。前に『蟲の女王』を討伐したときは、俺もかなり弱かったが戦えたし」
「煉、あなた『蟲の女王』を討伐したことがあるの?」
「そうだよ。『美獣』の2人とあともう1人コジエズさんって人と探索して、最後にボス確認だけしようってことで行ったら『蟲の女王』でさ」
「…まず最下層に行ってる時点で弱くはないと思うのだけど」
「そうか? そのときは発見が早く蟻たちも弱くてすぐ討伐できた。ダンジョンも休眠型だったからそんなに問題にならなかったし」
「だから今回の要請を断ったのね?」
「そうだな」
煉が常々公言しているとおり、ダンジョン探索は仕事ではなく趣味なのだ。興味があるダンジョンに行く。煉は徹底していた。
「まあダンジョンブレイクの危機が本当に迫ってきたら考えるが」
―――――――――――――――
氷華とそんな会話をした日の夜、知り合いから電話が掛かってきた。
「はい、もしもし」
「おう、煉。虎太郎じゃ。久しいな」
「コジエズさん。お久しぶりです」
「じゃからワシのことをそう呼ぶのはお前くらいじゃけんやめぇ」
「でもコジエズさんはコジエズさんなんだよな」
「まったく」
それは探索者仲間の1人、クラン『虎穴虎子』のクランマスターである佐々木虎太郎であった。
「ワシらのクラン名も『虎穴虎子』っていうイカす名前に変わったけんの、昔のクラン名を出すのは止めてくれ」
「前の『虎穴に入らずんば虎子を得ず』もカッコよかったですけどね」
「まあそういってくれるのはお前さんくらいじゃが、だからと言うて訳分からんところから持ってくるのはやめろ」
「
煉の中でクラン名が変わろうともコジエズはコジエズなのだ。煉の態度に虎太郎はため息を吐く。
「まったく変わらんやっちゃ。ってこんなことのために電話した訳じゃないわい!」
「そう言えば福岡ダンジョンのに参加するんですよね」
「そうじゃ。ワシらのクラン総出で出陣じゃ。お前さんは相変わらずじゃな。前に『蟲の女王』を見たときは一目散に駆け出して行きよったからに」
「すみません」
「お前のダンジョン好きは昔からじゃけん別によか。まあお前も思っとるじゃろうが、今のところダンジョンブレイクはおこらんだろ。それこそお前さんが好きな特別なことがなければな」
「やっぱりですか?」
『蟲の女王』の繁殖力が凄いとは言え、1人で産み出せる数に限りはあるため、ダンジョンブレイクが起こるまでにはまだまだ時間がある、というのが虎太郎と煉の予想であった。
「とはいっても放置したら危険なことに変わりはない。確か獣太も来るらしいからのサクッと解決したるわ」
「お願いします」
「じゃけん、ワシらが失敗するゆーことは分かってるな?」
「まあそうならないことを祈ってます」
「おう!」
とは言いつつも、彼らがいれば特に問題はないだろうと煉は楽観視していた。
その数日後、決行された『蟲の女王』討伐作戦で、『虎穴虎子』や『美獣』率いる探索者チームが撤退を余儀なくされたというニュースが煉の耳に入ってくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます