第20話 次元流剣術

ダンジョンの最下層に存在するダンジョンボス。そのボスを討伐することで起こる出来事はダンジョンの種類によって異なる。

 ボスを倒すとそれに見合う報酬を踏破者に与え消失する不可逆型。ボスを倒すと一定期間モンスターが出現しなくなる休眠型。そして煉がよく行くダンジョンは、ボスを倒せば倒すほどダンジョンが成長されていく成長型であった。


「次元流剣術1節『空歩』」


 ここのダンジョンボスである白銀狼フィンリルと対峙した煉は『空歩』で白銀狼の視界から消える。空間を切ることで距離を超越すると教えられた技だが、煉はいまいち理解できなかったので予備動作に剣を振る必要のあるショートワープだと解釈していた。

 しかし相手は狼。即座にこちらの位置を捕捉し攻撃してくる。


「次元流剣術2節『空抜』」


 空間を切り抜くことで空間の壁を発生させるらしい。煉は理解できていないので、空気を斬ると見えない壁を生成できる技として使っている。


「イメージしにくい技ばかりだ。それでも有用なんたが」


 次元流剣術は空間魔法と剣術を融合させた代物だが、2つを組み合わせようとすると剣を使わないといけないという縛りが発生し、技が思い付かないという致命的な欠陥により考案者が匙を投げた剣術である。

 

 剣を媒介にするため技の種類に乏しく効果範囲が狭い欠点はあれど、通常の空間魔法よりも格段に発動が早く、剣の効果なども上乗せできるため煉は重宝している。


「次元流剣術4節『空絶』」


 間合いに入り『空絶』で切り裂く。竜王にすら通用した攻撃を白銀狼は耐えきれず倒れるのだった。

 そして次元流剣術の練習用に持ってきた予備剣も寿命を迎える。


「まだまだ完璧に扱いきれてないか」


 実際に物体を斬るわけではない次元流剣術で、剣が壊れるのは煉が未熟だからに他ならない。そのため予備剣で練習をするのだ。


「さて、どんな風にダンジョンが変化するか楽しみだ。できれダンジョンボスも変化するといいが」


 修行の面でも様々な相手が欲しい煉であった。


―――――――――――――――


 探索者協会本部で支部からの報告をファイリングする事務仕事をしていたところ


「マジっすか? これは先輩に確認せねば」


 驚くべき報告を目に入ってくる。その報告者は数年前にお世話になった先輩だったため、すぐに電話を掛けた。


「ちーす、摩耶センパイ」

「こんにちは彩花ちゃん」

「今、本部でセンパイの報告見たっすよ。ダンジョンクリアってマジすか?」

「う、うん。本当だよ」

「今度昇進して正式に専属になる噂の英雄様がクリアしたってことっすよね」

「そうよ」

「また実績が積み上がるっすね。若くして支部長っすか?」

「やめて彩花ちゃん。ほんとうに何もやってないのに昇進が決まって罪悪感に押し潰されてるんだから」


 この先輩は異常氾濫が発生した際にそれを解決した英雄の召集に成功した功労により、昇進及びその英雄専属受付嬢となることが決定していた。

 先輩自体もその英雄の専属になることは嬉しく思っているのだが、英雄の功績が協会内での先輩の実績になるというシステムにだけは納得がいってないようだ。


「まあ諦めて実績を積み重ねてってください」


 と少しからかいつつ電話を切る。それにしても


「異常氾濫からまだそんなに日が経ってないのにもう別のダンジョンをクリアするってやばいなー」

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