第七話
「あの女、用があるのはヴィンセントだけって言いたいのね」
フィーリンは閉め出された大きな門扉を仰ぎ見る。
どうしたものかと、腰と顎に手を当てていた。
(自分のことしか考えてないような奴が聖女なんて、世も末だわ)
門に触れると、防衛の聖力が込められているようだった。
フィーリンが魔力を流し込むと、爆発音と共に、石や木材の破片が飛び散った。
奥の方で数人の王宮騎士が、攻撃体制に入る。
「あら、ごめんなさい。久しぶりで加減を間違えてしまったわ」
砂煙の中からきらめく紫の瞳に、騎士たちは息を呑む。
号令と共に、フィーリンへ剣を振り下ろした。
彼らが目にしたのは、悪鬼のように笑う、魔女だった。
気絶する騎士の山に無傷で立つフィーリンを見て、増援を伴ったアタシアは声をあげて笑う。
「さすが魔女さんだわ。楽しそうね、それ」
「ヴィンセントに会わせなさい」
奪った剣を喉元へ突きつけても、目を瞬いて首を傾げるだけのアタシア。
「あなたにはさっさと帰ってもらう為に、魔力を返したのよ。どうして他人のあの子がそんなに気になるのか...理解できないわ」
「他人?本気でそう思ってるの?赤ん坊の頃からみてきてるのよ」
「だって、自分のことじゃないでしょう?」
「自分が良ければそれで良いって?」
「人間、そういうものじゃない」
フィーリンは、込み上げる不快感から、眉間の皺を深めた。
(ヴィンセントがここに残ることを決めたなら、それでいい。だけど...)
「あんたなら、自分の目的の為に監禁しかねないものね」
小さな呟きが届いたのか、アタシアの口角がより上がり、こちらへ手をかざす。
聖力の刃が眼前に迫り、魔力の壁が跳ね返した。
「独りで可哀想だと思って、あの子をあげたのに。...失敗だったわ」
「あんたの気まぐれに巻き込まれて、いい迷惑だわ」
炎の渦が、アタシアに触れる直前で聖壁に阻まれる。
魔力と聖力のぶつかり合いに、誰も近づけず、厳しい訓練をこなしているだろう王宮騎士も、呆然と眺めることしかできない。
(キリがないわね)
アタシアを中心に、円を描くように攻撃を避けていく。
容赦無い風圧がお互いの頬を掠め、朱を散らした。
「ちょこまかと...逃げるのがお上手なのね、魔女さんは!」
大ぶりで刃を繰り出すアタシアの懐へ滑り込み、地面にフィーリンの手が触れる。
紫の光が線を引くように、辺りを照らした。
「歳取って鈍ったの?」
嘲笑うように言い放ってやると、アタシアの表情が崩れ、茨が彼女を縛りつけていく。
棘が皮膚を破り、呻きが叫びに変わる。
その声がパタリと消えると、砂煙だけが舞っていた。
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