第二話




 魔力を奪われ、ただの人間の暮らしを始めて2年ほど経った。




 フィーリンは王都の外れにある街の森の中で、孤児院時代から隠れ家として整備していた、捨てられたログハウスに移り住んでいた。




 聖女との一件で、より人嫌いになったフィーリンは街へ出ることもほとんどない。










 怒りを込めるように、危なっかしく斧を振り上げ、薪を割る。



(魔力さえ使えれば、こんなの一瞬なのに。人間って本当に弱くて面倒ね!)






 バコンッという音に被って、聞こえるはずのない『声』が聞こえた気がした。


 そんなことがあるわけないと、腕に力を込める。



「おぎゃー!おぎゃー!」


「幻聴まで聞こえるようになった?」




 恐る恐る覗き込んだ茂みには、大きめのバスケットが鎮座している。


 その中で、小さな手をぎゅっと握り締め、大粒の涙をあふれさせているのは、紛れもなく赤ん坊である。




「うちの近くにわざわざ捨てに来るなんてこと、あるの?」



 周りにはすでに誰もいない。






(死なれても、寝覚めが悪いし...)



 よっこらせと、ずっしりとしたバスケットを持ち帰るのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る