第8話 実行と目撃者

事件の少し前、シリウスとディアナの姿を確認したアリスは二人が近づく前にと画策する。


「お友達になりましょう」

アリスが生贄に選んだのは辺境伯令嬢のキャシーだ。


彼女は普段辺境伯領にいる為、このような大規模な茶会やドレスになれていない。


その為所作が覚束なず、田舎者と思われ、他の者は寄り付かなかった。


(あたしだって普通なら寄り付かないわ)

学生生活の時も目立たず、いたかいないかも覚えていないくらいだ。


そのため捨て駒にしてもかまわないと思った。


(この子が実行犯ならきっとディアナはこの子を糾弾するわ)

そうすればシリウスが責められることはない。


「ごめんなさい、ちょっとここで待ってて下さらない? 殿下に会う前に身だしなみを整えたいの」

そう言ってキャシーに飲み物を持ってもらい、一人殿下の側に待たせる。


ディアナは必ずシリウスに近づいて来るはずだから。


「来たわ」

丁度いいタイミング、丁度いい場所にディアナは来た。


後は退場してもらうだけ。


アリスは気づかれないように人ごみに紛れ、キャシーの背中を押した。





シリウスは一部始終を遠くから見ていた。


気づかれていないと思っただろうが、二人を意識していたシリウスは全部の事を察した。


(実際はアリス嬢が行なったか)

しかも他の者を用いて卑劣にも自分ではないような工作をして。


アリスの性格が悪いのは確認できたが、ディアナはわからない。


もしも夢の通りに性悪であれば、ここでキャシーを罵ってもおかしくはないのだが……。


「申し訳ございません殿下、少々お騒がせしてしまいましたが、大丈夫ですわ。殿下達は引き続きご歓談をお楽しみください」

引き止める間もなくディアナはキャシーをつれて行ってしまった。


ざわざわとする周囲を気にしつつ、シリウスは近くの侍女を呼ぶ。


「ウルズ、ディアナがキャシー嬢を虐めないか見張っててくれ」

もしかしたら人目のつかないところで何かするかもしれない。


二人が去った方角をしばし見つめていた。

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