地球創造主の俺が目に余る人間たちを滅亡させようと下界に赴いたら、生きる環境鬼畜すぎて死にかけた件。

@gekkou_utage

第1話

ここは、地球とは別次元に存在する、高貴なる存在が住む巨大な城、通称、アルカディア。

どデカい両開きの玄関から入ってすぐの部屋には、何段にも連なるシャンデリアが辺りを神々しく照らし、辺りは宝石や美しく咲き誇る季節違いの花々が植えられており、いかにもおとぎ話のような内装である。

その中で、三人の男女が、毎度毎度環境や資源を枯渇させる地球の人間たちについて、会議を開いていた。


「人間たちときたら。

森林破壊に、海中汚染、さらには資源の枯渇まで!

このままですと、地球が滅亡するのも時間の問題ですよ!」

玉座のような椅子に座る男女二人の前でそう叫ぶタキシードの男は、この三人の中で一番若いらしく、二人の顔色を時々伺うようにして話をしている。

名前は、ギルバート。目の前に座る創造主たちの召使い的なヤツである。彼は学校時代、かなり優秀であったにも関わらず、なぜか配属先がいわゆるブラック企業なみの就業時間、アルカディアで、目の前の男女から、召使いの身同然に成り下がるくらい不運な待遇を受けていた。

それから、常にいつ退職届けを出すか伺っているのだが……。

――かなり前から、ピクリともしない右側にいる男に、気づいていた。最初は自然に起きてくるのを待つあまり、叫ぶように話していたが、一向に起きる気配もなく、むしろ吐息すら聞こえ始めたので、仕方なく呆れ顔で右側にいる、ピクリともしない中二病のような痛々しい服装の男に尋ねる。

「…あの、創造主、デューク様、聞いておられるのですか?」

「え、聞いてるけど?」

デュークと呼ばれた金髪、猫っ毛な男がそう言うと、顔を上げる。すぐに返事が返ってきたのは意外で、寝ていなかったのかと一瞬考えたが――。

「嘘つけ、やっぱ寝てましたよね!

頬に盛大なよだれついてますよ!」

「げ、やべ」

デュークが慌ててよだれを拭く姿を見ながら、ギルバートは心の中で思う。

いかにも厨二っぽい服装……。

本当にどこで仕入れてるんだろうってくらい、ださいし、まずそもそもチョーカーって普通黒とか主流なのに、なんでピンク?

この前の同期会で、残業に関して厳しいハデス様についたって自慢してたやつがまじで羨ましい

「お、ギルバート。さすが目の付け所が違うな」

どうやら首元の視線に気づいたらしく、デュークが自慢げにニヤニヤしながら言う。

「このチョーカーな、犬星から取り入れたんだ。

どうだ?おしゃれだろ」

もういやだ。犬しかいない星から取り入れたって、それってつまり、首輪ってことでしょ。

込み上げてくるものを強引に飲み込み、いつもの勤務スマイルでにこやかに無視する。

「ごほん。

――それで要約しますと」

ギルバートが返事を返す気がないと悟ったのか、ようやく真面目な顔で話を聞き出したデュークに、半ば安心しながら、続ける。

「人間たちがこのまま突き進んでいけば、やがて地球はまた滅亡の一途を辿ることになります。

やっと第一人類に追いついたのに、このままでは……」

「させればいいだろ、滅亡」

「え」

「!」

「何だよ、二人とも。

ずっとそうしてきただろ?民度の低い生物は、どれだけ高文明だろうが、早々に消えるべきだ。

恐竜の時みたいに、また隕石でも降らせれば――」

トントン拍子に滅亡に話が進んでいくデュークに、慌てて横槍を入れるギルバート。

「ほ、ホンキですかっ?」

「悪いか?」

「だ、だって、せっかく地球上で一番知能も――」

「あのな」やれやれと言ったように髪をかきあげるデューク。さっきまで涎垂らしてたくせに、何という変わり身の速さだ。

「おい聞け。やつらを創ったのは俺だぜ?地球だってそうだが。

その俺がいらないって判断したんだ。俺のキャンバスくらい、どうしようが俺の勝手だろ?」

「ま…まあ」

でも上に報告するのは私……

「所詮はキャラクター。

代わりくらいいくらでもいる。

んじゃ、会議は終わったな?

さっさと隕石の準備を――」

「……それなら。」

今まで黙って聞いていた左側の女性が、ようやく口を開く。絹のような艶のある美しい髪の毛を天井の豪華なシャンデリアが照らす様は、まさに夜空の星のようだった。彼女は天照大御神、幼名、天桜(まゆら)。

見た目は天女だが、悪ノリする部分があるため、ギルバートの頭を悩ます、デュークに続く、二代巨頭の一人だ。

「貴方が滅亡させればいいじゃない。」

「は?」

ほら、また変なこと言い出した。

デューク様のこんな間抜けた顔みたの、久しぶりなんですけど。

そもそも創造主であるデューク様にそんな力ないし

「何で、俺が」

「そうよね、できないわよねぇ?

創造主って言っても名前だけだものねぇ」

「なんだと、天桜ぁ?!もっぺん言ってみろ!」

「…やめてください、お二人とも。ここは神聖な神域……」

ギルバートの声も虚しく、天桜がさらに小馬鹿にしたように煽り立てる。

「何言ってんの?貴方がしたことは惑星をつくったことだけじゃない。たしかに行き過ぎた文明や習慣には私たちが手を下してきたわ。でも、ここまで成長してきたのは、全て彼らの力――。貴方一度も滅ぼしたことないじゃない!いい加減、子離れしなさいよ、無力のくせにみっともない!」

「天桜様……その辺に――」

「はあ?!

俺が無力なわけないだろ!人間滅ぼすなんざあっという間だ!」

ギルバートに火がついたのを見た後、天桜がにやりと笑う。

「じゃあ、その最強な貴方が下界へ行って、直接彼らを滅ぼしてきたら?」

「えっ?」

面食らったような顔になるギルバート。

そうきたか、でもさすがにデューク様は――

「いいぜ?やってやるよ」

「ええ?!」

「なんだよ、ギルバート。お前も俺のこと力無いって思ってたのかよ?」

「いえ!滅相もございませんが――ですが、地球は――」

「この俺に二言なんてねえよ…っ!

滅亡させて、この日照り女にギャフンと言わせてやる」

そう言うなり、デュークが膝の上にかけていた、鎖が至る所につきまくったジャケットを羽織る。

いや、だっさ。思った以上にだっさ。

そう思っていると、スタスタと部屋を出て行こうとするデュークに、天桜に聞こえないくらいの小声で慌てて声をかける。

「デューク様、本当に行かれるのですかっ?いつものようにまた天桜様に謝れば――」

「なんで俺がいちいち謝んなきゃいけねんだよ

それに!地球は俺が作ったんだぜ?人間だって、動物だって!俺が作ったんだから、地球を滅ぼすなんて屁でもねえよ」

「しかし――」

「いいから、俺が下界へ行くためのビザでもとってこい、俺は本気だ」

いつになく真剣な顔をしているデュークに、確固たる意志があるのを感じたギルバートは、ようやく引き下がる。

「……分かりました。

ビザを手配いたします。配属先に何かご希望はありますか?」

「ねえよ、創造主なんだ、地球のことは俺が一番よくわかってる」

「承知しました。」

ギルバートが目の前に画面を表示させ、カタカタやっているのを横目に、デュークは驚いている天桜の方を振り返る。

「いいか、日照り女!俺が滅亡させる時をよく見てろよ」

「……っ、強がるのも今のうちよ?あんたに滅亡させるほどの力、ないじゃないの」

「へん、言ってろ。

何分でいける?ギルバート」

「手配は完了したので、今すぐにでも。」

「おっし、んじゃ今から頼む」

「では、10秒後に転送開始します。

最後に、二つだけ」

「なんだ?」

「一応住む場所は確保していますが、生活費はご自分で稼ぐことになっていますので、ご了承を。」

「んなこと、魔法さえあれば朝飯前だぜ。これだけか?」

「最後に。

地球は、魔法など存在しないので、デューク様の魔法も無効にしてあります」

「はっ?」

「では、ご武運を。

あ、たまに生存確認のために見に行きますね」

「いや――まっ――」

叫ぶ途中で、デュークの体が跡形もなく消える――。

行き先は、日本の一角にあるアパートだ。周囲の環境ランクをイージーモード、カジュアルモード、ハードモードと決められるのだが、デュークの確固たる意志を感じ取り、ギルバートは一番高難度の超難にしておいた。

ギルバートは、デュークを見送った後、徐にそばにあった地球の縮小モデルを、宇宙の中から取り出す。


デューク様の意志を汲み取って、超難にしておきました。決して日頃の恨みだとか、わざとじゃないです。

――健闘を祈ります、デューク様。


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