UFOと単調なリズム、非テレパス
Sanaghi
残響とアルミホイル、非テレパス
残響とアルミホイル、非テレパス -1
薄暗い部屋。換気扇が回っているからひどく暑くはない。決して悪い環境ではない。ただ、しばらく使っていなかったから、やや
浜辺に打ち上げられた魚みたいに、パークを巡回清掃する「ボット」が作業台の上に転がっている。わたしはエンジニアではない。エンジニアではないけれど、異常を検知したボットの
魚の解体作業のように、外装をひとつひとつビスを外して、剥がしていく。内部を
「久遠アケミ=わたし」と違って……アルミニウムは名が体をあらわしている。その語源は光を表す「alumine」から来ている、はずだ。アルミニウムが含まれている
清掃ボットが汗の一滴で壊れてしまったら、きっと
バラバラにした外装の、ひとつひとつを
わたしは、いまかすかに耳に残っている、あの電子音を、来客を知らせるものであると認識したのだろうか。
かつて、どこかでそれを聞いた覚えがあったのか。それとも失われた生存本能のように、太古から連綿と続く遺伝子情報に「この音は来客を知らせるものである」と刻まれていただろうか——そんなくだらない妄想を繰り返している暇はない。とにかく重要なのは、いま、玄関の扉のも向こう側で、わたしを待っている人がいる。ということだった。
わたしは廊下をゆっくりと歩いて、玄関へと向かった。ドアの向こうで、なにかが、動いている。すりガラスに乱反射して映る影が、もぞもぞと動いている——本当にひとだろうか? 「人だよー!」と声が聞こえる——本当にひとだろうか? 「人だってば!」たとえばアメーバのような無定形の怪物が、発声器官を模すように形を変えて、空気の振動を震わせて「声」を再現して、わたしを食い殺すために、誘い込もうとしているのではないだろうか。そう考えると、あの来客のインターフォンとその電子音に対して沸いた不信感にも説明がつく。それもやはり模倣された発声器官が造り出した「撒き餌」のようなものなのだ。
「ちょっと!」
ばたん、とドアが開け放たれた。目の前には、わたしと同じくらいの年齢——つまりは15から17才ほど——の少女が立っていた。肩くらいまでの赤毛を後ろでゆるくまとめて肩前に垂らした少女が立っている。無定形の怪物かもしれないという懸念こそ
「ちょっと。ねぇ。さっきから、随分
そう言って彼女は扉の隣につけられた、あのぼろぼろに
どうやら、わたしは幻聴を聞いていなければ、幻覚を見ていないようだ。やや友好的な態度から、少なくとも不定形のアメーバではないことは確からしい。見ているとぐるぐると目を
「ねぇ、キミ。キミってさ——」
彼女はわたしに一枚の封筒を差し出した。特別飾りのない。業務用として大量購入可能な。長辺23.5センチメートル、短辺12.0センチメートルの一般的に使われるものだった。
「——“非”テレパスって、ほんとうなの?」
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