第12話 魔王の望み

 ……えーと。


「どういうこと?」


 振り仰ぐと、魔王は遠く雲に霞むイプソメガス山に目を遣り、


「余は城から外界を見るのが好きだったのだ」


 淡々と語る。

 外界って……魔王城からこの村が見えるの? どんな視力よ。


「不老にして長命の魔族われらの暮らしは単調なものだが、人の一日は目まぐるしい。見ていて飽きぬものだ。しかし……」


 少し眉を寄せて、


「あの時の……七年前の夏は酷かった」


 日照りと熱波で地面はひび割れ、農作物は枯れ果て、人々は次々に倒れた。そんな状況の中でも領主からの援助はなく、逆に税の取り立ては厳しくなるばかり。

 毎日村外れに増えていく墓標に……とうとう魔王は動いた。

 配下を従え山を下り、村に物資を届けた。そして、税の徴収に来た役人を追い払った。

 当然激怒した領主は村に軍を差し向けたが、返り討ちに遭った。魔王はそのまま進軍を続け、この土地から領主までもを追い出したのだ。

 更に、圧政に苦しんでいた他の領地の町村も、プリム村とその領地の解放を知り、魔王軍の手を借りて次々と蜂起し、ユリスティ王国政権下から独立していった……。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 私は堪らず叫んだ。


「そんな話、知らないわ。魔王軍はユリスティ王国を支配しようとしているんでしょう? 実は正義の味方だったなんて話、誰が信じるっていうのよ!」


「余は自分の行いが正義だとは思っておらぬ。ただ、現状を変えたいと願う人の子に手を貸しただけ」


「でも……」


「時に聖女、そなたの信じている話は、どこからの情報なのだ?」


「それは……」


 真っ直ぐに問われて、私は言葉に詰まる。

 私が知っている情報は、ユリスティ政権下の街の噂や政府の発表から。

 でももし……政府の情報が操作されいているとしたら?


「再度言うが、余は人とのいさかいは好まぬ。この七年、余は現状を打開する為に人間の王に幾度も対話を求め、書状を送った。しかし、返事は一度も来ぬ。……使者さえも戻って来ぬこともあった」


「そんな……」


「だから、余と人間の王との対話の場を作ることのできる可能性を持つ人間を連れてきた」


 漆黒の髪を揺らし、魔王が私に向き直る。


「そなただ、聖女よ」

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