地蔵遊び
らんた
地蔵遊び
「地蔵遊びしようぜ、南原!」
「しよう! しよう!」
地蔵遊び。それはこの東北の地に広がっている奇習だ。夜に南天の枝を持ってその周りを十四名の者が囲む。そして中心になった人物が地蔵菩薩に憑依させることで地蔵から自分は救われるかどうかを聞き出すのだ。地蔵菩薩を憑依させるために呪い歌を歌うのだ。
「い……いいよ」
クラス半分以上の子が参加する。怖くて断れなかった。
「じゃあ、いつもの神社でな」
夜七時。本来アニメに夢中になる時間帯に彼らはやってきた。
「はい、これ南天」
懐中電灯を持った子たちが渡す。
「じゃ、歌うよ」
「目をつぶって!」
南原を囲んで皆は囃しを歌う。
――じぞうさん じぞうさん
――私の問いに答えておくれ
――弥勒様が世を救うまでの間
――この世を救うお方
――どうか我らを救っておくれ
歌い終えると周りの者が南天の枝を震わせる。すると南原の体も震えた。
「あ……あっ……あっ……」
南原の振えが止まると南原の声が鉛色のような声に変った。
――お前ら……なぜ我を呼び出した? くだらない要望だと死後……閻魔の裁きに会うぞ。我は閻魔の化身。地蔵菩薩。
「あのね。おとうちゃんが遠洋漁業の時に死んで……」
――聞いてなかったのか?
「ち……違う。今のは聞かなかったことにしてくれ。それよりもこの炭鉱の閉山後……この町はどうなるんだべ?」
――南には福音が……北には災いが降り注ぐ
「北!? 北ってどういうこと?」
――冥土の地となるであろう。しかし防ぐことが可能だ
「どうやって!?」
――冥界の力を借りずに地道に人のために生きる事だ
「あ、ありがとうございます」
――じぞうさん じぞうさん
――私の問いに答えてありがとう
――弥勒様が世を救うまでの間
――この世を救うお方
――どうか我らを救っておくれ
そしてもう一回南原の手に持っている南天の枝を振る。
「う……うっ……うっ……」
軽い震えが起きた後に南原の声が元に戻った。
「ありがとう。南原君」
実は南原たちが腹話術の練習をしていたことは大の秘密である。
<終>
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