第25話 二人の自己紹介

 そうして、士郎と赤髪の女性は雑談をしてお互いの仲を深めながら歩いていると、少し離れた場所にいかにも浮浪者ですという格好の人が集まっている場所があった。


 その場所の方が気になった赤髪の女性は士郎から人が集まる方へ視線を向けてみると、そこは何かの店になっているようで、今にも朽ち果てそうな看板がその店の入り口の左隣についていた。


 その看板には「めしや 藤本」と書いてあり、看板に書かれている名前から推察するに、浮浪者たちが集まっている場所がお食事処であることが分かった。


 浮浪者たちが集まっている場所がお食事処であることに気づいた赤髪の女性は意識がそのお食事処に完全に取られたこともあり、お食事何処からは食欲をそそる匂いがほのかに香っていることに気づいた。


 ほのかに香る食欲をそそる土手ともいい匂いを嗅いだ赤髪の女性は、


『グ〜〜』


 空腹状態に追い打ちをかけるように更なる刺激を受けたことで、再び彼女のお腹は食べ物を求めるようになったのだった。


 士郎との雑談で気を紛らわしていた赤髪の女性は再び襲いかかってきた空腹に絶望しながらも自分は奢ってもらうという立場上、あまり志郎のことを急かすこともできないため、必死に耐え続けることにした。


 そんな赤髪の女性を見た士郎は、


(見た目は完全に大人だけど、こういう年相応の行動をしているところを見ると、本当に高校一年生なんだという実感があるな。そう考えると、高校一年生にたかられている俺は相当情けないくね?)


 見た目は大人と言っても過言ではないのだが、年相応の行動をしているところを見ていると、彼女が本当に高校生であることへの実感が持てるなと思った。


 そして、士郎はつい最近高校生になったばかりの赤髪の女性に昼食を普通に奢るのではなく、脅しに屈したことで奢ることになった自分は相当情けないことに気づいた。


 自分の情けなさを自覚した士郎であったが、どうせ情けないところを見られたところで警察に突き出されるよりかは1億倍マシだったので、士郎本人はあまり気にしていないようであった。


 そこは気にしろと思うが。


 そうして、赤髪の女性の可愛らしい仕草に和んでいると、士郎はあることに気づいた。


 それは、


「そう思えば、今まで忘れてたせいで聞いてなかったけど、君の名前を教えてくれない?」


 赤髪の女性の名前を聞いていなかったことだ。


 赤髪の女性の名前を今まで聞いていなかったことに気づいた士郎はせっかく仲良くなったので、名前くらいは教えてもらおうと思い、名前を聞いたのだった。


 士郎から名前を聞かれた赤髪の女性は少し驚いたような表情を浮かべており、彼女も士郎の名前を聞いていないことに気づいていなかったようであった。


 士郎は名前を聞くことを自分だけでなく、赤髪の女性も忘れていたことに安心し、お互い最初にやるべき自己紹介を後回しにして話していたことに少しおかしく思い、笑いが込み上げそうになった。


 だが、ここで笑っていては話が進まないと思った士郎は込み上げて来そうになった笑いを必死に堪え、表情にも出ないように必死に取り繕った。


 一方、赤髪の女性は自分が名前を士郎に一度も聞かれていなければ、自分から名乗っていないのに加え、自分も士郎の名前を一度も聞いていないことに驚いており、案外名前を知らなくても会話はできるものなのだなと感心していた。


 赤髪の女性は名前を知らなくてもこれほどまで仲良くなれるものなんだなと一人で感心していたので、士郎が必死に笑いをこらえていたことには一切気づいていない。


 そうして、士郎が赤髪の女性に名前を教えてくれないかと頼んでみると、


「確かに、お前の言う通り今まで一度も名前を教えていなかったな。私の名前はアリアだ。私も名前を教えたんだ。お前の名前も私に教えてくれるよな?」


 赤髪の女性アリアは士郎からの提案を拒否することなく、自分の名前を伝えた後、自分の名前を伝えたのだから士郎の名前も教えてくれと言ったのだった。


 アリアから名前を聞かれた士郎は、


「俺の名前は士郎だよ。今の年齢は18歳だね。つい先ほど再就職先が決まったばかりの底辺社会人をやってる」


 自分の名前を答えた後、自分の年齢が18歳であることを伝え、自分が底辺社会人していることをも教えたのだった。


 士郎が軽い自己紹介をしてアリアの方へ視線を向けてみると、彼女はとても驚いたような表情を浮かべて硬直していた。


 士郎は別段おかしな自己紹介もしていないのだが、アリアはとても驚いており、アリアがここまで驚く理由が分からなかった。


 そうして、士郎がアリアがここまで驚く理由が分からず、頭を悩ましていると、


「士郎......お前、成人していたのか......てっきりお前も高校生だと思っていたぞ......なあ、士郎?ただでさえセクハラは気持ち悪い行為なのに、成人済みの社会人が高校生にするセクハラはもっと気持ち悪いぞ?普通に犯罪で捕まるから気をつけた方がいい」


 アリアは士郎が成人済みであったことに驚いていたらしく、どうやら彼女は士郎のことを同じ高校生だと思っていたようだ。


 そして、アリアは真剣な表情でただでさえセクハラは気持ち悪くて犯罪なのに、成人済みの社会人が高校生にするのは更に気持ち悪くて罪が重いため、これからは気をつけた方がいいと注意されてしまった。


 アリアから本気で心配された士郎は、


「はい......これからは気をつけます......」


 素直に彼女からの忠告を受けることにしたのだった。

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