祖父の手。父の手。私の手。
ろくろわ
私の祖父は父の父
私の祖父は、私が幼稚園児の時に亡くなった。
祖父は少し離れた所に住んでおり、お正月や誕生日等の時に遊びに行く程度の付き合いだった。
その時の私は祖父が亡くなるという事を、あまり理解できないでいた。
寂しいとか悲しいという気持ちはあった。
しかしそれ以上、特に感情を乱される事も無かった。
むしろ、大人達が慌ただしく動いており自分の相手をしてくれず退屈で、早く家に帰りアニメを見たいとすら思っていた。
今はもう、その時の事は思い出せないでいるのだが、普段怖い父親が声を上げ泣いたのは覚えている。
……私には、父が泣いている理由が分からなかった。
私の祖父が亡くなったのは悲しいが、理解が出来なかった。父が私の祖父の死に何故声を上げ泣いたのか。
祖父は私のお爺ちゃんであり、父にとっての何者なのか理解が出来なかった。
後でお爺ちゃんは「お父さんのお父さん」と聞かされたが、それでも良く分からなかった。
お父さんにお父さんがいる事が。
私にとっては、お父さんはお父さんで、お爺ちゃんはお爺ちゃんであり、全ては自分中心の関係性なのだから。
明るく、白い病室の中。
小さくなった父を見つめ手を握る。
弱々しく息を吐く父は、私の息子にとってあの頃のお爺ちゃんだ。
きっと、私と同じように今は理解できないであろう。
何故私の目から涙が出てくるのかを。
父は、あの日子供に戻っていたのだろう。
祖父との、父との時間を思い出しながら。
父は今、また子供に戻っているのだろう。
私にとって父であり、息子にとって祖父であり、そして祖父からは子供であった事を思い出しているのだろう。
私は今、息子にとっての父親だ。
だが、父の手を握る私は幼き日の子供のままだ。
祖父の手を握った父。
父の手を握っている私。
きっと繋がっていく。
今は理解できないであろう息子もまた、私の手を握る日が来るのであろう。
その時、私は再び子供に戻るのであろう。
終
祖父の手。父の手。私の手。 ろくろわ @sakiyomiroku
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